×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -





幼年期の終わり



視界が反転した。

背中がひんやりとする。固い床に背中を押し付けられ、少し身体が痛い。
視界に映るのは遠い天井。目の前には、熱い視線を注ぐ夏目がいた。

夏目は床に押し付けた夜月の上に覆いかぶさっていた。片腕は彼女の顔の横に付き、もう片腕は彼女の手首を掴み、ぐっと床に縫い付けていた。

ひんやりと冷たい夜月の体温とは反対に、燃えるように熱い夏目の体温が、余計に掴まれた手首から伝わってきた。


「そうやって子供扱いするノ、やめてヨ」


眉根を寄せた夏目が、絞り出すような声で言った。

目を細めて向ける視線は熱を孕んで、ゆらゆらと揺れている。絞り出した声色は静かで、そのなかには怒りも含まれていた。

夜月はとくに表情を帰ることも無く、真っ直ぐと自分に覆いかぶさる夏目を見つめていた。
そんな、何も反応を示さない夜月に、夏目は自分の中にふつふつと湧き出す感情を感じた。


「もう僕だっテ、子どもじゃなイ」


――そうだ。もう僕は子供じゃない。
――あの頃とは、もう違う。


「まだ兄さんたちと比べれバ、僕はまだまだかもしれなイ。でも、もう守られるだけの僕じゃなイ」


かつて『五奇人』や『女王』と呼ばれていたころの、生徒会との争い、結果は『五奇人』と『女王』の敗北。全員が、傷を負って生徒会に敗れた。しかし、その中で唯一夏目だけは『五奇人』と『女王』に守られ、生徒会によって打ち取られることがなかった。

守られていたのだ。幼い自分を、彼らは守ってくれていた。迷い込んでしまっただけだと、そんな自分を愛してくれていた。

けれど、いつまでもそんな自分ではない。変わったのだ。様々な経験を経て、自分だって変わったはずだ。いつまでも守られている末っ子のままではない。今なら、『五奇人』の前へ躍り出て、自ら打ち取られた『女王』だって、守れるはずだ。

いつまでも”可愛い弟”のままではいられない。
いつまでも”守られる存在”で居続けるつもりはない。

兄さんたちのように、彼らのように、自分だって彼女を守る存在でありたい。

夏目は背中をゆっくりと丸めて、夜月との距離を埋めた。
こつん、とお互いの額が触れ合う。至近距離で見つめている間も、夜月は表情を変えない。ただ真っ直ぐと目の前の瞳をみつめているだけだった。

夏目は眉尻を困ったように下げて、ふっと口角をわずかに上げた。


「ねえ、僕のことも見てよ」


――僕だって、姉さんに恋する男の一人なんだから。

すこしだけ顔を上げてから、再び距離をつめる。鼻先が触れ合ってしまうくらいの距離。互いの吐息が肌に触れ合った。


「夜月ねえさん」


互いの距離が埋まった瞬間、夜月はそっと瞼を閉じた。


BACK