Do you have a lover?



その日は珍しく、3年B組にいつもサボっている三奇人が出席していた。これで珍しくB組が揃うとおもえば、今度はレオの姿がない。やはりB組が全員揃う日は無いのだろうか、と思っていると、突然大きな音を立てて勢いよく教室の扉が開かれた。

扉を開いたのはレオだった。突然大きな音を出して開かれたことに、全員が目を丸くしてレオに視線を注いだ。


「・・・・・・お、おお。月永、どうかしたのか?」

「なにかあったのか、レオちん?」


扉を開いた体勢で顔を俯いたまま固まったレオに、紅郎となずなが声をかける。レオはうつ向いたままプルプルと震え「・・・・・・っ・・・・・・夜月が・・・・・・」と小さな声を零す。夜月と言う単語に全員が何かあったのではと身を固くしてレオの言葉を持った。レオは意を決して、顔を上げる。


「夜月に、恋人がいるのかもしれないッ!!!」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


てん、てん、てん・・・・・・と沈黙する。「え。夜月ちんに・・・・・・こい、びと?」最初に気を戻したのはなずなだった。「どうしようっ!! 仲良さげに一緒にカフェ入って! そのまま一緒に帰って行っちゃったんだけど!! これって絶対恋人だよな! なあっ!?」半ばパニック状態のレオがそのまま勢いよく飛びつく。「お、落ち着けって月永」そんなレオをなんとか落ち着かせようと紅郎も続く。


「おやおや」

「夜月にこいびとですかぁ」

「これは面白いことになってきましたねぇ。ねぇ、零? ・・・・・・零?」


席に座ったまま3人を眺めて会話をするが、零の返事がない。不思議に思って渉と奏汰は零に振り返る。すると、そこには目を開けポカンとしている零がいた。ツンツン、と奏汰が零をつつく。「れい、固まってます」反応は一切ない。「ショックで気絶しているんでしょう」やれやれと渉が返す。


「話は聞かせてもらったよ」


視線を向けると、扉の所に英智を先頭にA組の面々が集まっていた。どこからか話を聞きつけて来たらしい。


「どこの馬の骨が俺の夜月に手を出したってぇ? この俺を超えるほどの男じゃない限り、恋人だなんて認めないからねえ?」

「彼女の美貌に並び立つほどの美しさ、優美、気品がなければ、彼女の横に立つことなど認められないのだよ」


英智に続き、泉と宗が高圧面接官のごとく威圧感を出してそういう。

「これはこれは、面倒な方々が聞きつけてきましたねぇ」彼らを眺めながら渉は呟く。「ちょっと! 夜月ちゃんに彼氏がいたなんて聞いてないんだけど! ねえ、朔間さんっ!」薫はB組に飛び込んでくると、そのまま反応のない零を強引にユサユサと揺さぶった。「夜月にこ、恋人がいたなんて知らなかったな・・・・・・だが俺は応援するぞ!」唯一、この場の雰囲気を読んでない千秋が無邪気に笑顔を浮かべた。


「それで、月永くん。そのことについて詳しく教えてくれないかな」


英智の言葉に従い、若干涙目のレオは頷く。

話を聞くと、どうやら先日ひとりで街を歩いていたら、偶然そこで夜月を見つけたらしい。すぐに駆け寄ろうとしたが、夜月の隣には年上らしき知らない男がいた。しかも仲良さげに夜月と話していたという。そのまま2人はカフェに入っていき、仲の良い恋人のように喋って、しばらくしてカフェを出ると、そのまま2人で帰っていったらしい。仲の良さ、距離から恋人ではとレオは疑った。

「ふむ・・・・・・それは恋人だと疑っても仕方がないね」レオの話を真剣に聞いた英智は顎に指を添えて呟く。「や、やっぱり・・・・・・!!」肯定の言葉に、レオはガーン!という効果音が出そうなほどショックな顔を浮かべた。「俺に許可なく近づくとか、良い度胸だよねえ?」隣の泉もフツフツと怒りを募らせ「ふん。話を聞くだけでも、やはり平々凡々のようだね。全く彼女に見合わない」と宗も同じように吐き捨てる。「そんな奴より、絶対俺のほうがかっこいいじゃん」薫もそれに反抗していく。

「まあまあ、お前ら落ち着けって」そんな彼らを紅郎は呆れながら宥める。「そうだぞ! 話を聞いてみると、ただのナンパって感じでもありそうだけど」続いて決めるには早いとなずなも言う。


「お前たち、此処で集まって何をしているんだ」

「どうかしたんですか?」


すると、今度は敬人とつむぎが現れた。教室にいないのを不思議に思ってこちらへ来たらしい。2人にも事情を話すと、つむぎは「えぇっ!? 夜月ちゃんに恋人ですか。うわぁ、おめでとうございます!」と千秋と同じように肯定的な笑顔を浮かべ、一方敬人は「それは・・・・・・本当に恋人なのか? 俺には仁兎の意見が正しいと思うが・・・・・・」と怪訝な目でみる。


「それに、相手は夜月だぞ。まともにそんなことへ現を抜かすとは到底思えん」

「そうですねぇ。冷静に考えて、夜月は恋愛に興味はありませんし、恋人も作らないでしょう」

「んー。でも夜月なら、むこうからこくはくしてきて、ひまつぶしにーっておもったら、おーけーするんじゃないですか?」

「ふむ・・・・・・全く否定できませんね」


そんなことを話していると、ようやく零が動きを見せた。「おや零、気が付かれました?」気づいた渉が最初に声をかける。「珍しいな。朔間さんなら一番この件に関してとやかく言いそうだが」今まで黙っていた零を珍しそうに敬人は見る。「まあ、そうじゃのう・・・・・・」ボソボソと低い声で零は応え、腰を上げる。


「とりあえず、そいつの顔拝みに行くか」

「口調が戻ってますよ、零」

「うわぁ・・・・・・今にも人殺しそうだよこの人」


目の座った零を見て、薫は若干引いた様子を見せる。「そもそも、人の事情に俺たちがとやかく言う権利もない」敬人は呆れながら騒ぐ彼らに言い放つ。「そうだな。それでも気になるっつーなら、直接聞きゃいい」紅郎も同意をする。「うぅ〜! それができたらぁ! 困ってないんだよぉ〜!!」そんな2人にレオは涙目になりながら訴えた。


「おや? 全員集まって、何かあったのかい?」


扉のほうから声がして、全員が一斉に視線を向けた。そこには、事の発端である夜月が立っていた。状況を知らない夜月は首を傾げて全員を見渡す。

すると「夜月」と零が呼ぶ。そのままスタスタと零は夜月に歩み寄った。「なんだ、れ、い・・・・・・?」目の前に来るとガシッと両肩を掴まれ、夜月は疑問を浮かべながら目の前の零を見上げる。


「嘘だろ? 嘘じゃよなあ?! 我輩たちの勘違いじゃろう?! おぬしは、我輩に黙ってそんなことはしないじゃろ?!」

「うーん、全く理解のできない言葉の羅列だ」


ユサユサと少々乱暴に肩を揺さぶり、目を見開いて必死に縋ってくる零に夜月はそっけなく返す。周りを見渡せば、飽きれてる人もいれば零と同じような状況の人もいる。レオに至っては、若干涙目ではないか。


「夜月ちゃん、単刀直入に聞かせてもらうよ」


渉によって零から解放されれば、英智が一歩前へ出て真剣なまなざしを向けてくる。一体何なのだろうと思いながら、夜月は英智の言葉を仰いだ。


「君には、恋人がいるそうだね?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・えっと?」


「オレ、見たんだ!」するとレオが声を上げた。「お、おまえが、知らない男と仲良さそうにカフェ入って、そのまま帰っていくの・・・・・・」少し話しにくそうにしながら、レオは自分がみた光景を告げる。それを聞き、夜月は記憶をたどった。そして一つの記憶にたどり着くと「ああ、あの時のか。なんだ、レオに見られてたのか」と、なんとも意味ありげに笑みを浮かべた。


「え・・・・・・じゃあ、ほんとうに、こいびと・・・・・・」


ボソボソと続けたレオの言葉に、肯定も否定もなく、ただニコリと笑った。


「ちょっと夜月っ!! そんなの聞いてないんだけどぉ! 写真見せなさいよ! 彼氏なんだから写真くらい持ってんでしょ!!」

「え・・・・・・うそ・・・・・・俺、泣きそう・・・・・・」

「ほーう? そうか、なら我輩自ら見定めてやろう。して、住所はどこじゃ?」

「そうだね。大切な夜月ちゃんのためにも、しっかりとその覚悟を見せてもらわないとね。今度、僕の屋敷へ招待しようか」


泉、薫、零、英智は過激にそれに反応する。その背後ではレオは抜け殻のように固まり、そのほかは予想外だと驚いた様子を見せる。そんな彼らに囲まれ、詳細を教えろと詰め寄られる。すると、夜月の肩がフルフルと震えた。


「・・・・・・ク、ハハッ、アハハハハハッ!!」


突然、夜月は大きく笑いだした。大声を出して笑う夜月に呆気にとられ、全員が目を見開いて呆然とした。「ク、フフ! あー、面白過ぎる。面白過ぎて涙が出てきた、フフ」クスクスとお腹を抱えて夜月は笑う。


「この私が、恋愛なんてするとでも思うか? 恋人なんているわけないだろう」


そしてバッサリと切り捨てた。
状況が過ぎに読み込めず、全員が一時停止をした。

「っ・・・・・・夜月−っ!!」青筋を立てた泉が勢いよく怒鳴る。「まあ、そうですよねぇ」渉は納得と言った顔をする。「ふん、そんなことだろうと思った」ため息を吐きながら敬人は呆れた顔をする。


「えぇっ!? 恋人じゃないんですか?! じゃあ、どうして一緒にカフェに入ったんですか?」

「ああ。いわゆるナンパで声をかけられたんだが、ちょうど行きたかったカフェで奢ってくれると言ってねぇ。言葉通り、それをしてもらっただけさ」


「そんな甘言に乗せられるのではないのだよ」君ともあろう者が、と宗は息をはく。「乗ってやったのさ。奢ってくれと強要してもいない、自発的にそう言ったんだ。まあ、相手は合意を得たと思っていたようだけど、すぐに捨て置いたよ」フフっと夜月は楽し気に笑う。「いやしかし、割と面倒なことをしたと思ったが。こんな面白い展開になるなら、付き合ってよかったな」愉快だと彼女は満足そうに言う。

そんなとき、ふとレオが視界に入る。レオは顔を俯かせてプルプルと震えていた。「れ、レオ?」黙ったままのレオに、夜月は様子を伺うように名前を呼ぶ。そうすると「っ・・・・・・っ夜月の・・・・・・」とレオは途切れ途切れに声を出す。


「・・・・・・夜月のバーーーカっ!! もう知らないっ!!」

「え」


ぶわっと子供のように怒ったレオは、そのまま走り去ってしまう。少々揶揄い過ぎただろうかと思った時にはもう遅く、レオは大声を出して教室を出ていってしまった。どうしたものかとレオが行ってしまった先を眺めていると、ふいに肩に手を載せられる。


「夜月。ちょーっと話があるんだけど?」

「僕も今回ばかりは言わせてもらおうかな?」

「ちょっと今回はおいたが過ぎるのう?」


笑顔を浮かべて静かに怒る泉、英智、零の姿が背後にある。それを見て、夜月はため息をついた。


「あぁ、やっぱり面倒だ」




お題箱からです。「彼氏がいるかもしれない噂が流れてざわざわする夢ノ咲生が見たい」とのことで、3年生にそれをやってもらいました。3年生はとくに主人公への執着が強いので、暴走気味です(笑)。こういうネタを書きたいけど面白いのかどうか自分では分からないのが難点です。面白いですかね・・・・・・?たくさんのお題を貰っているので、少しずつ消化していきたいと思います。お題、ありがとうございます!これからもじゃんじゃん送ってください!


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