ガチャ、と扉が開いた。入ってきたのはデュースだ。デュースはいまだ、カーテンを閉め切ってキングサイズのベッドの真ん中で眠っているディーアを見て、やれやれと笑みを浮かべる。デュースは一気に部屋のカーテンを開けた。いきなり入り込んできた太陽の日差しに、ディーアは布団をかぶる。
「ディーア、そろそろ起きたらどうだ?」
そう言って肩を揺らして起こそうとするが、ディーアは布団の中でもぞもぞと動いて起きようとしない。その様子にデュースはため息を落とすが、向けた眼差しは愛しいものをみるような瞳だった。
「ほら、そろそろ起きろ。エースももう朝食を作り終える頃だぞ」
布団を勢い良く引っ張り、強引にディーアを起こす。布団をなくしたディーアは眩しそうにしながら、小さく丸まる。もぞもぞと動いたディーアが、眠そうな瞳でデュースをとらえた。
「おはよ・・・・・・でゅーす・・・・・・」
「おはよう。ほら、運んでやるから。腕まわせ」
眠そうなディーアをクスリと笑い、デュースはディーアに手を伸ばした。ディーアがこんなにも朝が弱いと知ったのは、3人で同棲を始めてからだった。意外な一面を見て、デュースは優越感と愛しさを感じていた。
首にゆるゆると腕をまわしたのを確認して、デュースはディーアを横抱きに抱き上げた。そのままリビングに向かえば、エースが朝食を作り終えテーブルに並べていたところだった。
「お、来たな・・・・・・って、まだ寝てんじゃん。相変わらず朝弱えーなぁ」
デュースに抱き上げられてやってきたディーアを見て、エースも呆れたように笑う。コクコクと船を漕ぐディーアの頬をエースはつつく。そのたびディーアはムッとした表情をして、それを見たエースはクスリと笑った。
ディーアを椅子に座らせて3人で朝食を取っていれば、だんだんと頭が回りだしたディーアがようやく目を覚ます。
ディーアとエースとデュースは、学園を卒業してから同棲を始めた。結局元の世界へ帰ることができなかったディーアは途方に暮れ、この先の身の振りを思案していた。そんなディーアを半ば強引に引っ張り、卒業後、はれて同棲することができた。この生活になってから早くも数年が過ぎている。
2人には在学中に告白された。入学当初からずっと一緒にいて、一番の友人だった2人に告白された当時は酷く戸惑い、変に意識をした日々を送った。2人の努力が実り、ディーアは2人を一人の男性として意識し、見ることができた。しかしエースとデュースはディーアにとって同じくらい大切な存在で、どちらか1人を選ぶことができなかった。どちらも細切だし、好きだと伝えれば、最初は2人とも不満げにしていたが、それでも選んでくれたからと次第にそれを受け入れた。
3人との同棲生活は、まるで学園にいたころと同じようで毎日が楽しかった。グリムがいないのが少し寂しいが、一人前になったグリムはたまにこの家に押し掛けてくることもあった。本当に学園の延長線にいるようだった。
3人で協力して暮らしているため、何に対してもあまり苦ではないのが一つの利点だ。家事は各自、それぞれ振り分けられたものを交代で行い、食事はディーアが作るが、朝が弱いディーアに代わって器用なエースが朝食を作っている。はじめはデュースも作っていたが、一度キッチンが大惨事になったことをきっかけに、デュースには力仕事などを頼むことにした。
3人は、毎日を楽しく過ごしていた。
「なあ、今日オレら3人とも休みだろ? なにする?」
「そうだな。久しぶり出掛けるか?」
「うーん、でも久しぶりの休日だし。今日は3人で家でゆっくりしよ」
ディーアの提案に「そうだな」とデュースが頷く。「んじゃ、ゲームとかためてた映画とか見ようぜ」エースもそれに賛成し、ため込んでいたものを消化しようと言った。
それから3人でゲームで遊んだり、片っ端から映画鑑賞をした。お昼を食べ終えた後に見た映画は、時間も長く、なかなか難しいミステリーものだった。エースとディーアは推理をしながら見るものの、隣のデュース首を傾げていた。デュースにとってはあまり面白い映画ではなかったらしく、時間も時間で、いつの間にかデュースはソファで眠ってしまってた。
眠ってしまったデュースが隣に座ってるディーアに凭れ掛かったことにより、エースとディーアはデュースに気づいた。「眠っちゃったみたい」小声でそう言えば「デュースにはまだ早かったんじゃね?」と揶揄うようにエースは言う。エースはディーアに凭れ掛かったデュースに手を伸ばすと、雑にデュースを反対側へ押しのけた。デュースは起きないまま、肘置きを枕代わりにするように倒れ込む。
「んで、おまえはこっち」
隣に座ったディーアを引っ張り、自分の足の間に座らせる。そのまま後ろからお腹に腕をまわしてギュっと抱きしめ、肩口にグリグリと頭を押し付けた。
「ふふ、珍しい。甘えたなの?」
「そー。今はお前に甘えたいの」
クスクスと笑ったディーアに、エースはさらに甘えるようにディーアを引き寄せた。普段は見栄っ張りで恥ずかしがりやだから、素直に甘えてくることはあまりない。あるとすれば、やはりデュースがいないときだろうか。猫みたいに擦り寄るエースが可愛くて、ディーアは思わずエースの頭を撫でた。
「ねえ、キスしたい」
「え・・・・・・あ・・・・・・」
「いいでしょ。アイツも寝てるし」
エースの言葉にディーアは顔を赤く染めた。何度もそういう行為をしたことがあるが、やはりなれない。キス一つでも、ディーアにとっては心臓が飛び出してしまいそうなほど恥ずかしかった。逃げようとするディーアを捕まえ、片手で顎を掴む。そのまま唇に触れようと、だんだんエースが近づいて来る。恥ずかしさで目をつむった、その時だった。
「抜け駆けは良くないぞ、エース」
「チッ・・・・・・起きてたのかよ」
肩を掴まれて後ろに突然身体を引っ張られた。掴んだ張本人はデュースで、目を鋭くしてエースを睨みつけていた。エースも唇を尖らせ、舌打ちをする。ディーアはひとまず免れたことにほっと息を吐く。
「いいじゃん、おまえは朝ディーアとくっついてたんだしさあ」
「抱き上げただけでそれ以上は何もしてない」
「へぇ〜? 自分が手だせないからって嫉妬しないでくんない?」
「あぁ? んだとコラ」
ディーアを挟んで繰り広げられる喧嘩に、ため息を吐く。この光景を見ると、やはり学生時代から変わらないなあ、と思う。しばらく言い合いを続ける2人に挟まれながら収束するのを待っていると、ディーアは欠伸を一つ零した。それに反応して、2人の言い合いはピタリと止まった。
「なに、眠いの? 昼寝する?」
「昼寝をするならベッドに行くか?」
「うん、そうだね」
3人はゆっくりと昼寝をするため、寝室に足を向けた。ベッドにディーアを挟むようにエースとデュースが入り込む。ディーアは携帯を手にもって、目覚ましを設定する。寝過ごして夕食が作れなくなってしまっては困る。すると「なあ、ディーア」とエースが服のそでを引っ張った。それにつられて顔を向けると、すぐそばまでエースの顔が迫っていた。
「っん・・・・・・!」
「なッ・・・・・・!!?」
「・・・・・・っは・・・・・・隙あり」
気づいた時には唇が塞がれていた。触れるだけのキスをして離れると、エースは舌で唇を舐めとって、ニヤリと笑った。それを見せられ、ディーアは顔を赤く染め上げた。
「おまっ・・・・・・エース!!」
「ッハ! キスしちゃダメなんてルールはねぇだろ」
悪だくみをするときのような笑みを浮かべ、エースは勝ち誇ったようにデュースに言う、デュースは言い返すことが出ず、こぶしをふるふると震わせ、エースを睨みつけた。いつもならディーアが仲裁に入るが、先ほどのキスでそんなのに構っている余裕はなかった。口元を抑えて赤くなるディーアを見て、デュースは嫉妬を募らせる。
「ッ・・・・・・ディーアッ・・・・・・!」
「え・・・・・・? ッんぅ・・・・・・! ッ・・・・・・ふ」
ガシッと両手で腕を掴まれれば、そのまま強引にデュースは唇を押し当てた。突然のことに驚いて、ディーアは目を見開く。唇は強く押し付けられ、エースよりも長く、深いキスをされる。
「ちょっ! オレはそこまでしてねぇだろッ!!」
「ッは・・・・・・!」
「ぷはっ・・・・・・」
唇が離れ、空気を吸い込む。力の抜けたディーアは倒れ込み、それを背後からエースが受け止めた。目の前にいるデュースは目をギラつかせ、吐息を零しながら親指で唇を拭い、それを舐めとった。
「ふ、見たかエース」
「お前なあ・・・・・・」
「先に仕掛けたのはお前だぞ」
2人の間に火花が散った。
エースは力の抜けたディーアを抱えなおし、片腕はお腹に回し、もう片手はディーアの左手に絡めた。そのまま耳元で熱い吐息を零してから、首筋に舌を這わせた。ゾワリとした感覚に襲われ、小さく短い悲鳴がこぼれた。
それに続き、デュースはディーアの右手に指を絡めた。ディーアの手の甲や指にキスを落としてから、片手で持ち上げた足の内側を唇でなぞった。くすぐったい気持ちと恥ずかしさで、ディーアはめまいがしそうだった。
「っ! ま、待って! お、お昼寝は・・・・・・?」
「無理。今すぐヤりたい」
「すまない、ディーア。もう我慢できそうにない・・・・・・」
この流れを断ち切ろうとしてそう言ったが、あっさりと2人に切り捨てられてしまう。2人の視線は熱がこもっていて、とても逃げられそうになかった。ギュっと手を握られ、エースとデュースは、それぞれディーアの耳元に顔を寄せる。
「あー、ホント好き。最後までちゃんと付き合えよ・・・・・・?」
「好きだ、ディーア。なるべく優しくする・・・・・・」
「・・・・・・ッ」
スプリングが軋む。
3人の身体は、そのままベッドに沈んだ。