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唇から伝染する
3rd Anniversary

一人黙々とキッチンに立って夕食の準備を進めていると、玄関からガチャリと扉が開く音がした。音に反応してディーアは急いで手を洗い、足早に玄関へ足を向けた。


「おかえりなさい、デイヴィスさん」

「ああ。ただいま、My dear」


クルーウェルはパタパタと仔犬のように自分を出迎えに来たディーアを引き寄せ、空いた片手で前髪をかきあげて、露わになった額にそっと口づけをする。そのままクルーウェルは包み込むようにディーアを抱きしめる。フワフワしたコートに包まれ、ディーアは心地よさそうにクルーウェルにすり寄った。


「良い子に留守番はできていたか?」

「もちろんです」

「Good girl! お利口なお前にはご褒美をやろう」


そう言って頬に手を添えると、今度は両頬に軽い口づけを落とした。それがくすぐったくて、ディーアは身をよじってふふっと笑みを零した。それにつられて、クルーウェルも目を細める。


「夕食ならもう少しで出来上がりますよ」

「なら先にいただこう」


脱いだコートを受け取り、定位置の場所にハンガーをかける。リビングに向かい、ディーアは再びキッチンに立って夕食の準備の続きをはじめた。


突然この世界に迷い込んできたディーアは、結局卒業までに元の世界へ帰る方法を見つけることができなかった。クロウリーの話を聞く限り、帰ることはほぼ不可能だと言われた。もともと元の世界に未練も心残りもなかったディーアは、素直にそれを受け入れた。しかし、元の世界に帰れないのならここで生きていくしかない。身寄りもなく、魔法も使えないディーアが此処で生き抜くのは難しい。卒業をする以上、これ以上学園に身を置くこともできない。そんな途方に暮れたディーアを拾ったのが、クルーウェルだった。

クルーウェルは行き先のないディーアを卒業日に自宅へ連れ帰った。白と黒を基調としたシンプルで広い部屋は、とてもクルーウェルらしい家だった。ディーアは余った部屋を一室与えられた。それだけでなく、ベッドやタンス、洋服や靴、その他生活必需品など、クルーウェルはためらうことなくディーアに与えた。

なぜここまでしてくれるのか、と聞いたことがある。一人の元生徒を拾ってここまでしてくれる理由を、ディーアは見つけることができなかった。それを聞いたクルーウェルは、フッと笑みを浮かべ、妖しく口端を上げた。


「お前はもう、生徒じゃないからな。もう我慢する必要もないだろう」


目の前に立つクルーウェルを、ディーアは目を丸くして見上げた。クルーウェルは耳元に顔を寄せ、と息交じりに囁いた。


「――これから覚悟しておくんだな、ディーア」


囁かれた耳元を抑えて、ディーアは咄嗟にクルーウェルから距離を取った。全身の体温が上昇した。

それ以来、心臓の煩い日々が続いた。今までは生徒として、仔犬として見られ接してくれたが、それが一変し、一人の女性として扱われはじめた。向けられる視線は熱っぽく、じっと見つめてはいけない気がした。クルーウェルの行動や表情、言葉に、鼓動が早まる。毎日が彼に振り回された。

そんなクルーウェルに惹かれるのも時間の問題だった。もともと生徒時代から目を掛けられていて親切にしてくれた、ディーアにとって頼れる大人だったクルーウェルにディーアは懐いていた。最初から好意を持っていたクルーウェルに惚れるのも時間の問題だったのだ。

恋人になってから数年後には、籍を入れた。早いように感じるが、もともと結婚を前提にしたお付き合いだったため、普通な流れのように感じる。
左薬指に指輪をはめてからも、なに不自由ない日常を送っている。クルーウェルが頑なに、ディーアが外で働くことに反対したため、ディーアは主婦と言う立場に身を置いた。クルーウェルは学園で教師としての仕事があるため、平日は教師寮に泊まり、週末には必ず自宅に帰った。それを毎週ディーアが出迎え、休日には2人の時間をのんびりと過ごすのが、特別な時間となっている。


夕食を食べ終え食器を片付けていると、クルーウェルは何も言わずに皿洗いをしだす。自分がやると申し出たが、代わりに風呂の準備を頼まれ、ディーアはそそくさと湯舟に湯を張りだした。そのあとは洗い終えた皿を拭いて片付ける。ちょうどそれが終わったころに、タイミングよくお風呂が沸く。

クルーウェルは当然のようにディーアと一緒に風呂に入ろうとする。恥ずかしがって嫌がるディーアを引っ張り、あっという間に服を脱がして一緒に湯船につかる。自分に背を向けながら足の間にちょこんと両足を抱えてディーアは小さく座る。後ろから腹に腕をまわして引き寄せ、晒されたうなじに唇を押し当て、そのまま唇で背に這わす。ビクリと肩を揺らすディーアにそっと笑みを零し、空いている片手で唇を指でなぞる。流れるように顎に指を添え、唇に深く口づける。

湯船から上がり、寝間着を身にまとい、髪を乾かすと、クルーウェルはディーアを抱き上げて寝室に向かった。シーツの上にゆっくりと下ろされ、ベッドが沈む。覆いかぶさるように身を乗り出したクルーウェルによって、ベッドは一段と沈み、スプリングの軋む音が響いた。

熱のこもった視線を向けられ、ディーアはそっと目を伏せる。それを許さないとでも言うように、クルーウェルは瞼に口づけを落とし、頬に手を添えてコツンとお互いの額をくっつける。目を合わせろ、と言うその合図に、ディーアはおそるおそる視線を合わせた。


「良い子だ」

「んっ・・・・・・ぅ・・・・・・」


唇にあつい熱が触れる。触れた唇から、熱が注がれた。はじめは短い口づけ。何度も角度を変えて触れるたび、口づけは深くなっていく。注がれる熱に酔うように頭はぼんやりとして、くぐもった吐息が零れ落ちる。


「――っは・・・・・・ん、ぅ・・・・・・」

「っん・・・・・・」


息ができず一度胸を押し返せば、唇は離れた。けれど息を吸い込んだ途端、再び唇でふさがれた。回数を重ねるたび深く激しくなる口づけに、生理的な涙が流れる。熱を帯びた唇は、まるで媚薬のようだった。

ようやく唇が離れ、息を整える。その間もクルーウェルは額や瞼、頬、耳、首筋に口づけを落とす。その熱に、ぞわりと身体が震えた。

クルーウェルの片手がベッドに投げ出されたディーアの指に絡めると、もう片手はディーアの身体を撫で、服の隙間から直接肌に這わせた。その感触に、ディーアはビクリと身体を揺らす。そっと絡めとった指に口づけを落とす。


「My love・・・・・・愛してる」

「・・・・・・あっ・・・・・・ん」


言葉はなく、吐息が零れ落ちた。
再び深く塞がれた唇に、ディーアは応えるようにそっと瞼を下ろしてそれを受け入れた。