オンボロ寮を出て少し外を歩く。外の空気は夜中だけあって冷たく、上着をしっかりと羽織りなおす。少し散歩をしてから寮に戻ろう、と寮から少し離れたところまで歩いてきた時だった。
「おや、また会うとはな、人の子」
「こんばんわ、ツノ太郎」
散歩をしていた先にいたツノ太郎は夜月に気づくと口端を上げた。「今日もお散歩ですか?」と聞くと「ああ」とツノ太郎は頷く。こうして夜の散歩をするツノ太郎と会うのは数度目だ。「お前こそこんな夜更けに何をしている。人の子はもう眠る時間だろう」いつも会うときはもう少し早い時間だった。夜遅くに出歩く夜月に怪訝な顔をする。「今日はなんだか寝付けなくて・・・・・・」夜月は困ったように笑う。
「よければ一緒に散歩でもどうかな?」
一人夜の散歩をするツノ太郎に言う。「お前が望むなら、そうしよう」少なからずツノ太郎は嬉しそうに目を細めて頷いた。
それから2人は夜の散歩に歩き出した。オンボロ寮から遠からず近くもない場所を優雅に歩く。背の高いツノ太郎は夜月の歩幅に合わせてゆっくりと足を踏みだす。「それで。今日は何があった、人の子よ」隣を歩く夜月を見下ろして聞けば、夜月は顔を緩ませて口を開きだした。
「今日はグリムが・・・・・・」夜月は今日一日あったことをツノ太郎に話す。嬉しかったこと、大変だったこと。授業でのことや友達のこと。夜月は楽しそうに声音を弾ませてツノ太郎に話す。それに相槌を時折打って、ツノ太郎は黙って夜月の声に耳を傾けた。
こうして今日一日あったことを話すよう促すのは、ツノ太郎と何度か話をするようになってから始まった。あまり自分のことは話したがらない彼は、代わりに夜月のことを聞きたがった。夜月も自分の話に耳を傾けてくれるツノ太郎がうれしくて、いつも楽しそうに話した。楽し気に声音を弾ませて自分に話してくれる夜月が、ツノ太郎にとっても嬉しかった。夜月の話に耳を傾ける時、ツノ太郎はいつも顔をほころばせて愛し気に目を細めて見つめていた。
「あ、今日は星がよく見えますね」
「今日は快晴だったからな、空気がよく澄んでいる」
視線を空に向けた夜月にツノ太郎はそう答えた。いくつもの星が輝く夜空を感嘆を零して見上げる夜月。その時ふと、ツノ太郎が遠くに視線をそらした。それに夜月は気づいていない。
「もう夜も遅い、そろそろ帰るとしよう」
「そうだね、思ってたより時間がたってたみたい」
「寮まで送ろう」
そう言ったツノ太郎に頷く暇なく、彼がわずかに指を揺らした瞬間、いつのまにかオンボロ寮に場所が変わっていた。ツノ太郎がいつも立ち去るときの魔法だろう。「ありがとう、ツノ太郎」一瞬でオンボロ寮の自室に付いたことに驚きながらお礼を言う。「もう眠れそうか?」と問うツノ太郎に「うーん、どうだろう・・・・・・」と困った笑みを零す。気分転換にはなったが、まったく眠気はきていない。眠れるかは分からなかった。
「なら僕がよく眠れるよう、まじないをかけてやろう」
「今日の散歩の礼だ」と続け、おもむろに夜月の顔に掌をかざす。夜月にはそれだけにしか見えなかった。それなのに、だんだんと瞼が重くなってくる。急に訪れた睡魔に抗うことなく、夜月は瞼を下ろし意識を手放した。
意識を手放し眠りについた夜月の崩れ落ちる身体を掬いあげ、部屋にあるベッドにおろす。ベッドの隅に腰を下ろして、寝息を立てて眠る夜月を見下ろす。スヤスヤと眠る姿は無垢な子供だ。いや、まだ純真無垢な少女であったか。ベッドに散らばる夜月の髪を掬いあげ、スルリと滑らす。
「おやすみ、人の子」
それを一言に、ツノ太郎は姿を消した。
とくに章指定のない、マレウスとのある日の夜の話です。仲良くなり始めて少し経った後辺り。好感度MAX100とすると今回の話は80ぐらいかな。これからどんどん上がってMAX100越えになる。ゲームのエピソードやセリフなどでマレウスのギャップに当初は凄く悶えました。それからマレウス式典服エピソード・・・・・・マレウスとレオナの不仲も好きです。それを使って取り合いとかさせたいですね(笑)。