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数日後、ようやくフェアリーガラ当日にたどり着いた。レオナのウォーキングもなんとかヴィルの合格点をもらい、カリムとジャミルのダンスも息ぴったりだ。フェアリーガラに潜入する夜月やグリムを入れて6人は、ポムフィオーレ寮に訪れ、ヴィルとクルーウェルによるドレスアップとメイクアップを行っていた。

4人のドレスアップとメイクアップが終わると、入れ替わりで今度は夜月の番になった。ヴィルに呼ばれ着替え室にやってくると、クルーウェルから衣装を受け取り着替え始める。衣装は以前、衣装チェックをした時と少しばかりデザインが変わっていた。純白に上品な刺繍が縫い込まれた布に腕を通す。高価な生地であるため、肌触りもとても気持ち良かった。

着替え終えると、夜月は少し恥ずかしそうにしながらそっと部屋を出てヴィルとクルーウェルの前に顔を出した。


「あら、似合ってるじゃない。さすがクルーウェル先生ね」
「ふん、当然だ。俺の目に狂いはない」


フェアリーガラの衣装に身を包んだ夜月を見て、ヴィルとクルーウェルは頷きを見せる。

「ふむ・・・・・・」クルーウェルは自分が仕立てた衣装に身を包んだ夜月を、つま先から頭のてっぺんまで、まじまじと眺める。その視線に#name#は恥ずかしそうに身じろいだ。恥じらう夜月をフッと笑い、クルーウェルは長い指先を顎に添え、スッと夜月の顎を持ち上げた。


「綺麗に仕上がっているぞ、My lady」


そのままクルーウェルは額に軽いリップ音を落とした。夜月は顔を真っ赤に染めて口をパクパクと開閉させる。「あ・・・・・・う・・・・・・」と言葉にならないものを口から零し戸惑っていると、それを見ていたヴィルが「ちょっと、教師が生徒に手を出すなんて如何なものかしら?」と鋭い一言を投げかける。「フ、少し揶揄っただけだ」クルーウェル楽し気に喉で笑いながら、そっと夜月から離れた。


「ほら、こっちへいらっしゃい。まだメイクとヘアセットが残ってるわ」


ヴィルは夜月の手を優しく引いて、備え付けの豪奢なドレッサーデスクに座らせる。デスクの上にはヴィルが愛用しているものが並べられていた。それを一つずつ手に取って、ヴィルは丁寧に夜月の髪型やメイクを仕上げていく。あっという間にセットは終わり、ヴィルの指示に従って目を開ける。目の前の鏡に映る自分が、まるで別人のように感じた。


「とっても綺麗になったわ。素敵よ、プリンセス」


鏡に映る夜月の瞳を見詰めながら、ヴィルは手を救い上げて、そっと手の甲に口づけを落とした。またほんのりと赤く頬を染めた夜月を見て、ヴィルはクスリと笑みを零す。


「これならあの4人もイチコロね」
「仔犬どもの反応を見るのが楽しみだな」


2人はそう言って楽し気にしている。「さあ、行くわよ」ヨヅキはヴィルに手を引かれるまま、4人が待っているレッスンルームに向かって歩きだした。



*  *  *



扉が開き、レッスンルームにいた4人は一斉に扉へ視線を向けた。クルーウェルやヴィルに手を引かれて戻ってきた夜月は、少しおずおずとしながら姿を現した。衣装に身を包み、髪型もしっかりと整え、メイクも施した夜月を見て、4人は思わず釘付けになる。レオナやジャミルは一瞬驚いた様子を見せた後フッと笑みを零し、カリムはぽーっと夜月に見惚れ、ラギーに至っては猫のように目を丸くさせ耳や尻尾をピンと立たせていた。

「ど、どうですか・・・・・・?」恥ずかしそうにしながらはにかんで問う。
「ふーん・・・・・・?」最初に動いたのはレオナだった。レオナはそのまま夜月の目の前までやってくると、上から夜月の姿を見下ろす。そして目を細め口端をニヤリと上げると、グッと腰を引き寄せ、指で顎を持ち上げた。


「良いになったじゃねえか」
「へ? あ、あの・・・・・・」
「このまま喰ってやろうか?」
「や、あの、レオナさ・・・・・・」


すると突然背後からレオナの頭をヴィルが勢いよく叩いた。バシン、と大きな音がして、レオナはピクピクと青筋を立てて背後に振り返った。「ヴィル、テメェ・・・・・・」レオナがそう唸れば「衣装に皴が付くでしょ、さっさと離れなさい」ときつく言いつける。レオ花舌打ちをして、夜月を解放した。

ほっと息を吐くと、ぽーっとこちらを見詰めていたカリムと目が合った。首を傾げれば我に返ったのか、カリムは目を輝かせて夜月を褒めちぎる。


「すごく綺麗だ、似合ってるぞ! まるで本当の妖精のお姫様みたいだな!」
「そ、そうですか?」
「ああ、似合っているよ。妖精に見紛うくらいにね」


素直にカリムやジャミルに褒められ、夜月は嬉しそうに頬を緩ませる。「この衣装、真っ白だからウェディングドレスみたいですよね」前から思っていた衣装について夜月がそう口にすると、ジャミルは目を白黒させ、カリムは笑顔を浮かべた。


「確かにそうだな。でも結婚式のドレスには、もっと豪華で宝石もたくさんついたのを用意するからな!」
「え」
「なっ、カリム!?」


「ん? どうしたんだ、ジャミル」カリムは自分が発言した言葉について気にすることもなく、ジャミルや夜月の反応に首を傾げる。「ジャミルも見てみたいだろ、夜月のウェディング姿」カリムの言葉に夜月が助けを求めるようにジャミルを見詰める。ジャミルは少し考えるそぶりを見せてから、フッと口端を上げた。


「そうだな。俺が選んだドレスに身を包むヨヅキには興味がある」


まさかジャミルが乗ってくるとは思わず、夜月はあたふたとする。一方でカリムは言葉の真意に気づくこともなく「ええっ、ジャミルが選ぶのか!?」などと声を上げる。

そこでようやく夜月は、会話の輪の中に入っていないラギーに気づいた。あたりを見渡してみると、目を丸くしているラギーを見つける。不思議に思いつつ、ラギーの元へ向かうと、放心状態になっていたラギーも我に返る。


「ラギー先輩、どうですか? この衣装」
「えっ! えっと・・・・・・」


裾を少し持ち上げてヒラヒラさせる。ラギーは目を泳がせた後、視線を逸らしながら「に、似合ってるッスよ?」と一言だけ告げる。夜月は「本当ですか」と嬉しそうにしていた。「髪飾りもラギー先輩と同じ花冠なんですよ」自分の髪を指さしながら言う。見るからに夜月は綺麗な衣装に身を包んで浮かれていた。嬉しそうに辺りに花を咲かせる夜月に、ラギーは困ったように唸った。


「無自覚もほどほどにしてほしいッス・・・・・・」
「ラギー先輩?」
「なんでもないッスよ、もう・・・・・・」


ペタ、と伏せた耳と下の方でゆらゆらと揺らす短い尻尾。そしてほんのりと赤く染まった頬はしばらく引かなかった。