×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





近々、カリムの誕生日がやってくるそうだ。スカラビア寮生からその話を夜月が耳にしたのは、当日から数日前のことだ。話に聞くと、カリムの誕生日当日には、寮生全員でお祝いとプレゼントを贈るらしい。日頃慕う寮長に感謝の気持ちを送りたいと、寮生たちは張り切っていた。

夜月は、それなら自分も贈り物を送ろう、と考えた。日頃仲よくしてもらっているし、助けられている。お礼と感謝を込めて、夜月はカリムに誕生日プレゼントを贈ることにした。

しかし、問題は誕生日プレゼントだった。高価なものには手が出せないし、カリムならそれくらい自分で手に入れることができる。豪奢な暮らしをしている人に、ましてや富豪の次期当主に、安物を贈るのは気が引けた。ならモノではなく食べ物はどうかと考えたか、カリムはジャミルが作った料理しか口にしないし、ジャミルの料理以上のものを作れる自信もなかった。そうやって誕生日プレゼントに悩んでいたら、とうとう前日まで来てしまった。夜月は助けを求めるようにジャミルに相談することにした。


「カリムに誕生日プレゼントを?」
「はい。なにか喜びそうなもの、ありませんかね」


ジャミルに相談しに行けばムッとした顔で「なぜカリムに送ろうと思ったんだ?」と問われる。「いつも良くしてもらってるので、そのお礼にと」素直に答えれば、ジャミルはふーん、と腕を組む。「で? それを俺に聞きに来た理由は?」ジャミルはムッとした顔のまま再び問いかける。「えっと、ジャミル先輩ならカリム先輩の喜びそうなモノに詳しそうだなぁ、と・・・・・・」まるで尋問をされている気分だった。ジャミルははあ、とため息を一つ零した。


「カリムなら何をやったって喜ぶ。そう難しく考えるほどじゃない」
「そうですかね」


確かにカリムなら何を贈っても「ありがとな!」と笑顔を浮かべて喜びそうだ。「・・・・・・君が贈ったものなら、なおさらな」ボソッと呟いたジャミルの言葉が聞き取れず首を傾げると、ジャミルは「なんでもない」と言って、それ以上の詮索を拒んだ。

ジャミルに相談しても具体的なものが出てこず、夜月は途方に暮れた。うんうん唸って必死に考えるが、カリムが喜びそうな良いものを見つけることができなかった。結局プレゼントを見つけられずに当日を迎えることになった。

参ったな、と考えているところに、廊下の向こうからカリムが一人で歩いて来るのを見つけた。カリムは夜月を見つけるなり笑顔を浮かべ「おーい!」と手を振って駆け寄ってくる。「よう、ヨヅキ! お前ひとりなのか? 珍しいな」駆け寄ってきたカリムは、いつも誰かしら傍にいるのに今は一人でいる夜月を珍しそうに見た。


「カリム先輩、誕生日おめでとうございます」
「おっ、なんだ、知ってたのか?」
「寮生の人から聞いたんです」
「そうか。へへっ、ありがとな!」


カリムは夜月からお祝いの言葉をもらい、嬉しそうに頬を掻いて笑顔を浮かべた。それからカリムは、今朝起きてから寮生たち全員からお祝いをしてくれたんだと嬉しそうに話した。嬉々として話すカリムに相槌を打つ。一通り話し終え、会話の切れ目に、夜月は申し訳なさそうに口を開いた。

「すみません。本当は贈り物を用意したかったんですけど、良いものが思いつかなくて・・・・・・」ごめんなさい、と申し訳なさそうに謝る夜月にカリムは目を丸くした。「え、プレゼント、考えてくれたのか・・・・・・?」と聞くカリムに「はい、いつものお礼がしたくて」と答える。それを聞いたカリムは嬉しそうに口元をニヤつかせた。自分の贈り物を夜月が考えてくれていたことに、カリムは嬉しいのだ。

「なので、今日はカリム先輩の『お願い』を叶えたいと思います」カリムは「オレの『お願い』?」と夜月の言葉を反復した。夜月は頷く。「今日は誕生日ですからね。私に頼みたいことがあれば言ってください」これが私からの誕生日プレゼントです、と夜月は口にした。それを聞いたカリムは目を輝かせ、パシッと夜月の手を両手で握り掴んで、ズイッと顔を近づけた。


「じゃあ今日一日、ヨヅキの時間をオレにくれ!!」


夜月はパチパチと瞬きをして、カリムを見詰めた。



* * *



今日一日の自分の時間をくれと言われた夜月は、カリムに気圧され、それを了承した。つまり、今日一日カリムに付き合えばいいということだ。それくらいのことなら何も問題ない、と夜月考えていた。

あの後、そろそろ一限の授業が始まるため、夜月とカリムは教室に向かった。その時カリムは、夜月はどの授業に出るのか問いかけた。魔法史だと答えると、カリムは自分もそれにすると言って同じ教室に向かうことになった。教室に着くと、集まった生徒たちが空いている席に座って行っていた。教室にはエースとデュースの姿もあった。

「あ、遅いじゃんヨヅキ。寝坊でもした?」夜月の存在に気づいたエースが揶揄うように声をかける。「ヨヅキ、良かったら此処座るか?」デュースはそう言って一つ席をずれようと立ち上がった。ありがとうと言って2人の元へ行こうと足を一歩踏み出したところで、パシッと手を取られた。手を握られ引き留められた夜月は目を丸くしてカリムを見返し、エースやデュースもカリムの行動に目を丸くした。


「悪い。今日はオレがヨヅキを貰ってるんだ。それはまた今度誘ってくれ」


悪いな、と笑顔で断りを入れるカリムに、エースとデュースは声をそろえて「は?」と口に零した。そんな2人を気にせず教室内を見渡したカリムは「おっ、向こうの後ろ席、2人分空いてるな。行こうぜ」と夜月を引っ張っていく。エースとデュースは何か言おうと口を開いたが、すぐにトレインが教室に入ってきて、言い出すことができなかった。

教科書とノートを開いてペンを持ち、授業を始める。静かな教室にトレインの声が響き、生徒の大半は眠そうに、または退屈そうに授業を受けていた。夜月も授業を受けようとノートを開きペンを持つが、一向にカリムは繋いだ手を放そうとしなかった。手をつないだまま、カリムもいそいそと教科書などを机に広げる。「あの・・・・・・」と小さく声をかけるが、カリムは「なんだ?」と首を傾げるだけ。ギュっと手を握る力が増して、離す気はないと暗に伝えられているようだった。

お互い片手が塞がったまま授業を受ける。机の下で繋がれる手は離れない。たまに繋いだ手をカリムの指が撫でる。それに驚いてカリムに目を向けると、カリムは朗笑を浮かべながら夜月をじっと見つめていた。授業中のため無暗に声を出すわけにもいかなく、少し恥ずかしい気持ちになった夜月はそっと視線をノートに落とした。それからもカリムは指で手をなぞったり、キュッと握ったり、指を絡ませたりした。そちらに意識が行ってしまったせいか、授業はあっという間に終わってしまった。

やっと終わったと一息つく。するとカリムは夜月を引っ張って早々に教室を出ていった。そして再び次の授業を聞き、同じ授業に参加した。その間もカリムは絶対につないだ手を放そうとしなかった。錬金術や飛行術の授業などは流石に手を離したものの、それでも一定の距離以上は離れないようにべったりと付いてまわった。そこでようやく『今日一日の時間をくれ』の意味に気づくことになった。

授業時、移動、昼休みも手をつなぎ、距離を詰めるカリムに夜月は気恥ずかしさと心臓の鼓動が頂点に達していた。かといって嬉しそうに花を咲かせて笑うカリムを突っぱねることもできず、自分が了承したこともあり、夜月はなんとか放課後まで迎えることができた。部活もないし、することもない。あとは寮に帰って夕食を食べ、寝る支度をしてベッドに入るだけだ。これで解放されると思ったのが甘かった。


「え? だって今日一日ってことは、日付が変わるその時までだろ?」
「え」


カリムはオンボロ寮まで付いて行き、日付が変わる0時まで一緒にいると言い出した。夕食などはどうするのか、と聞けば「ジャミルに伝えてくる!」と言って一緒にジャミルの元へ向かうことになった。今日はオンボロ寮で泊ると言い出したカリムに、ジャミルは「は?」と零し、隣にいる夜月に視線を向けた。事情を話せば「はあ・・・・・・」と深いため息をつかれる。夜月本人が了承してしまったため、ジャミルも口出しすることができず、結局カリムと夜月そしてグリムの分が入った夕食のお弁当を手渡された。不機嫌なジャミルからそっと目をそらし、夜月はカリムと一緒にオンボロ寮へと帰った。

寮に戻るとグリムがすでにいて、事情を話した。グリムはそんなことよりジャミルの作った夕食に目を輝かせていた。一方、カリムはオンボロ寮の中を見て目を丸くしていた。「思ってたよりボロボロなんだな。こんなところに住んでて平気なのか?」と悪そびれもなく聞いてくる。流石はお坊ちゃんといったところだろう。「なんならオレが立て直してやろうか?」と聞いてくるカリムに夜月は必死に首を横に振り、断った。

それから陽が落ち、月が昇り始める。ゴーストたちとお話して、シャワーを浴びて、ジャミルからもらった夕食を食べるとあっという間に時間が過ぎ去っていった。グリムは夕食で腹をいっぱいに満たし、ソファで眠ってしまった。まだ0時にはなっていないが、夜も遅い。眠気もやってきていた。


「カリム先輩、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないですか? 夜遅いと皆さん、心配しそうですし」
「でも、まだ日付変わってないだろ?」
「それは、そうですけど・・・・・・」


意地でもカリムは日付が変わるときまで居続けるらしい。「もしかして、眠いのか?」夜月は頷く。今日は気疲れしてしまったため、本当に眠いのだ。「じゃあ一緒に寝るか!」ニッと笑ったカリムの発言に、夜月は目を見開く。「ほら、早く寝ようぜ」と手を引っ張って、明かりを消して、夜月のベッドまで向かう。


「ま、待ってください! それは流石に・・・・・・」
「オレと一緒は嫌か?」
「いや、じゃない・・・・・・です、けど・・・・・・」


頬に熱が集まっていくのが分かる。恥ずかしそうに頬を赤く染めて戸惑う夜月を見て、カリムはフッと目元をやわらげる。「日付が変わったらちゃんと帰るからさ。な、今日だけは良いだろ?」繋いだ手を優しく引っ張って夜月を誘う。夜月は断ることができず、カリムと一緒に自分のベッドに入り込んだ。

1人用のベッドに2人で入るのは狭い。夜月は隣にいるカリムに背を向け、なるべくベッドの隅に身を寄せた。しかしカリムは自分に背を向ける夜月に声をかける。


「なあ、なんでそっち向いてるんだ? 顔、見せてくれよ」
「それは・・・・・・その・・・・・・」


恥ずかしい、なんて言えるわけもなく。言葉を濁らせて黙り込む。しばらくカリムから声をかけられないでいると、スッと伸びた腕が視界に入った。そのまま頬に手を添えられ、顔の向きを変えられた。


「な、こっち見てくれよ、ヨヅキ」


すぐ目の前にはカリムの顔。至近距離でじっと見つめる瞳と目が合い、身体の体温が上がった。カリムにされるがまま、伸ばされた腕に誘導されてカリムと向き合う姿勢で横になった。すぐそばから真っ直ぐに見つめてくる瞳から逃げるように、目を逸らす。


「お前の肌は白いな」
「そう、ですか・・・・・・?」
「ああ、異国の女の子だなって思う。熱砂の国にはいないからな。綺麗だな、砂漠の花みたいだ」


指で髪を弄び、手の甲で頬を撫でる。夜月はその行為にくすぐったそうにして、恥じらうように視線を泳がせた。その姿がひどく扇動的に見えた。

――欲しい。
ストン、とカリムの中にその言葉が入っていく。指で優しく首筋をなぞると、夜月はビクリと肩を揺らしてキュッと目をつむった。それから這うように指を滑らせ、頬の何度も撫でる。「カリムせんぱ・・・・・・」開いた唇に親指を添え、そっとなぞる。ふっくらとした唇は暖かくて、魅惑的だった。熱い視線を向けられ、夜月はとらわれたように動けなくなった。

――欲しい、欲しい、ほしい。
カリムの中にその欲がどんどん募って膨らんでいく。ずっと一緒にいたい。ずっと触れていたい。もう一度親指で唇をなぞると、今度は顎に指を添えて少しだけ持ち上げた。触れたい。触れたい。欲しい。もう一度だけ。カリムはそっと瞼を下ろして、顔を近づけた。


「――ッ! もう時間ですッ!!」
「・・・・・・へっ?」


カリムを押しのけて上半身を起こした夜月は、声を張って叫んだ。押しのけられたカリムは目を丸くし、間抜けな声を出した。真っ赤な夜月を見詰めた後、言葉の意味を理解したカリムは部屋の時計を見て声を上げる。「えっ、もう!? あ、ほんとだ・・・・・・」時計の針はしっかりと0時を過ぎていた。カリムは脱力したように肩を落とす。

「もう帰りましょう。玄関までは送りますから」まだ引かない熱に気がとられないように平常心を纏いながら言う。布団を剥いでベッドから足を下ろそうとすると、控えめに後ろからそでを引っ張られた。振り向くと、カリムが少し拗ねたようなムッとした顔でこちらを見上げていた。


「まだ一緒にいたい・・・・・・」
「――っ」
「ダメか? 何もしないって約束するから」


上目遣いで子供のように縋ってくるカリムに言葉を詰まらせる。朝にはちゃんと帰るから、とお願いをするカリム。夜月はそれに負け、おずおずと再び布団の中へ戻った。それにカリムは嬉しそうに微笑んで、また向き合うように横になった。夜月もカリムも、頬が赤かった。

「手、握ってもいいか?」何もしないと言った手前、カリムは遠慮がちに聞いてくる。少し迷った末に頷いた夜月を見て、カリムはそっと夜月の手を包み込み、指を絡ませて握る。手からお互いの体温が伝わってきた。

しばらく2人はじっと向かい合って見つめていた。気恥ずかしさに2人とも動けないでいた。「・・・・・・そんなにみられると寝れないです」そう夜月が最初に口にした。「じゃあ、一緒に目をつむろう」そしたら2人で眠ろう、とカリムが口にする。


「おやすみ、ヨヅキ」
「おやすみなさい、カリム先輩」


2人はそっと瞼を下ろす。目を閉じていても、すぐそばにいるのがわかった。繋いだ手がそれをつなぎとめているように思えた。カリムは微笑みを浮かべたまま、眠りについた。





カリムの誕生日ということで記念に書いてみました!思ったより長くなってしまった・・・・・・でも満足です。スカラビアの沼にはまりました。カリムとジャミルが最近好きすぎます。SSR引けなかった・・・・・・早く2回目ピックアップを!!一応C4後という設定で書きました。主人公はカリムにキスされた後なので、カリムのことを異性として意識してるんです。他の人たちはまだ手を出していないので、警戒心はゼロです。特にエースなんかは『友達』という体でオンボロ寮に泊まる際ベッドに潜り込んでくるので、意識はしてないです。カリムが先に手を出しちゃって主人公も異性として意識しちゃったから、他の人が黙ってないね。いつ手を出させるか考えてます。