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――はじめは、ただ面白いと思っただけ。


「あっ、小エビちゃ〜ん!!」
「っ! フ、フロイドせんぱい!」


アズールの一件以来、フロイドは夜月のことを気に入ったのか、頻繁に絡んでくるようになった。自分が駆け寄ってくる姿を見るたび、ビクリと肩を揺らす夜月がたまらなく面白く見えたらしい。

今だってそうだ。授業に向かうためグリムやエースとデュースと並んで歩いているところを発見したフロイドは、すぐさま目を輝かせて突撃してくる。フロイドの声にビクリと肩を揺らして振り返れば、フロイドはもうすぐ目の前まで来ていた。フロイドはそのまま夜月の腰を掴んで、幼い子供や仔犬か仔猫を抱き上げるようにして持ち上げる。

フロイドの姿を見るなり、グリムやエースとデュースはぎょっとした顔をして夜月を置いて先に行ってしまう。あの一件もあって、関わりたくないと前面に押し出してくる。自分を置いて逃げ去る3人の姿に、夜月はため息を落とした。


「あ、あの、下ろしてください」
「え〜、だってオレ背ぇでかいから怖いって言ったじゃん」


「これなら怖くないでしょ?」ニッコリと笑ってフロイドは、自分と同じ視線まで持ち上げた夜月に言う。確かに以前、突然目の前や背後に姿を現してくるフロイドに驚くからやめてほしいと言った。突然現れるのに加え、フロイドは身長が高い。背も低く小柄な夜月にとって、それは少し怖く見えた。


「な〜に、いつもみたいに絞めたほうがよかった?」
「え、ちょ」
「じゃあ、ギュ〜!」


夜月の有無も聞かずに、フロイドは持ち上げた状態から夜月に腕をまわして抱きしめる。身体を持ち上げられ、床に足はつかない状態だった。加減の知らないフロイドに強く抱きしめられ、息が止まりそうだ。床に足も付けれず、逃げるすべもない。「く、苦しいです・・・・・・っ!」なんとか悲鳴を上げ、手でフロイドの背を叩いて知らせるが、フロイドはまったく気づかない。


「こらフロイド、そんなに強く抱きしめてはヨヅキさんが死んでしまいますよ」
「ん〜、あれ、小エビちゃん?」


2人を見つけて声をかけてきたジェイドの言葉にフロイドが夜月を見下ろす。腕の中で夜月が苦しそうにしていたことにようやく気付いた。「えぇ、こんなんで死んじゃうとか、人間って脆すぎない?」などと口を零すフロイドに「仕方ありませんよ、僕らとは違う生き物なんですから」とジェイドが言う。

フロイドから解放された夜月は、ようやく地面に足を付けることができた。ふぅ、と肺いっぱいに空気を吸い込む。口添えをしてくれたジェイドにお礼を言うと、授業開始のチャイムが鳴ってしまった。夜月は慌てて2人に頭を下げ、授業に向かっていく。走って行く夜月の後ろ背に、フロイドは退屈そうに一言零した。


「・・・・・・あーあ、つまんねぇ」



* * *



その日も、廊下を歩いているところでフロイドは夜月を見つけた。めずらしく夜月はグリムやエースやデュースを連れずに1人でいた。フロイドはそーっと足音を立てないように歩み寄り、背後から両肩に手を置いた。


「小〜エ〜ビ〜ちゃ〜ん!」
「ひゃっ!? フロイドせんぱい・・・・・・もう・・・・・・」
「あはっ、ほんと小エビみたぁい」


短い悲鳴に肩をビクつかせる夜月に、フロイドはニィっと笑みを浮かべる。またおどかしてくるフロイドに、夜月はほっとするのと同時にため息をおとした。ふと、フロイドが肩越しから夜月の手を覗く。


「それ、なに?」
「あ、これですか?」


夜月は手に持っていたものを掲げた。


「ウツボ型の飴です。サムさんのお店で売ってて、つい」
「ふ〜ん」


夜月が持っていたウツボの形をした飴は、紫色をしている。白い棒の先についた飴は、透明の袋と薄紫色のリボンで綺麗にラッピングされている。「ウツボと言えば、フロイド先輩ですね」飴を眺めながら夜月がポツリと零す。その言葉にフロイドは気にすることもなかったが、次の言葉を聞いて目を丸くした。


「フロイド先輩の人魚姿、綺麗だったな・・・・・・」


独り言のように呟いた言葉だった。実際、独り言だったのだろう。飴を眺めながら言う夜月に、フロイドは思わず目を見張った。硬直したフロイドに気づかず、夜月は飴をフロイドに差し出した。「良かったらどうぞ」目の前に出されたそれを見詰める。ちらりと夜月を見れば、朗笑を浮かべている。

フロイドは差し出された飴をおずおずと受け取った。受け取ったのを見ると、夜月はそのまま手を振ってフロイドと別れ、廊下を進んでいく。残されたフロイドはポツンとひとり廊下に立ち尽くし、もらった飴を見下ろす。紫色のウツボ型の飴。それを見ると、頭の中で夜月の言葉が木霊した。


「なに、それ・・・・・・」


フロイドは赤く染まった顔を隠すように、その場にしばらくしゃがみ込んだ。



* * *



飴をもらったあの日以来、フロイドはしつこく夜月に絡むことをやめた。夜月を見つけても素通りをするか、ふいっと逆方向に向かっていく。絡まれる夜月やそれを見てきたエースたちは、フロイドが飽きたのだと思い込んでいた。しかし、それは全く違った。むしろフロイドは以前より夜月を意識し始めていた。それに気づいているのは、フロイドをよく知るジェイドやアズールだけ。

今日も、フロイドは夜月を見つけたにかかわらず何もしないでいた。ちょうどジェイドと廊下を歩いているとき、中庭で夜月を見つけた。フロイドはそれを遠くから眺めるだけ。そんなフロイドを隣にいたジェイドがクスクスと笑う。


「フロイド、声をかけなくていいんですか? いつもなら真っ先に飛びつくのに」
「ジェイドうるせぇ〜」
「ふふ、おやおや」


ムッと口を尖らせるフロイドにジェイドはクスクスとまた笑みを零した。それにフロイドはさらにムッとした。自分でも意識しすぎていると自覚はしていた。気にせず声をかければいいのに、なかなかそれができない。歯痒い状況に苛立ちがが募る。小エビちゃんが突然あんなことを言うからだ、とフロイドは自分の中で愚痴を零した。

そんなとき、ふと顔を上げた夜月と目が合った。フロイドは目が合いビクリと驚き、一方夜月は目を丸くしてこちらを見ていた。硬直してしまい目を泳がしたフロイドは、目に入った夜月を見て目を丸くした。

フロイドを見つけた夜月は、笑顔を向けてフロイドに手を振った。何も変わりない、親しい知り合いを見つけた時にする素振りだ。ただフロイドは夜月の笑顔に釘付けになっていた。花が咲いたみたいに笑う夜月。いつもはあんな顔、しないのに。強張った顔とか、微笑むぐらいの笑顔しか向けないのに。


「〜〜っ! なに、あれ・・・・・・」


耳まで真っ赤にしたフロイドはへなへなとその場にしゃがみ込んだ。真っ赤になった顔は熱いし、心臓はドクドク鼓動を打って痛い。「あんなの、反則じゃん・・・・・・」蚊の鳴くような声で零した言葉に、ジェイドは楽しそうに笑みを零した。





とくに章指定はないです。前提として、C3後というだけ。フロイドの恋に落ちる瞬間のお話です。フロイドの恋は単純で可愛いものだと思ってます。何気ない一つの仕草でふと好きになっちゃう。私にとってオクタヴィネル3人は恋愛初心者と解釈してます。この後からフロイドは主人公にだけ何気なく優しくなるし、人間は脆いって考えから過保護になるし、主人公の言うことなら多少は聞いてくれる。人間・恋愛初心者のフロイドは可愛い一面を出してくる思う。その辺は他2人も同じ、でもちょっとひねくれてる。後最後に一言。ウツボの通い婚って、いいよね・・・・・・。