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さよならまであと3秒



「これでもダメなのかい?」


窓を背後に腕を組んで椅子に座っている青年は、困った顔をして目の前にいる彼女を見上げた。
外はもう赤く染まり、日が落ち始めている。青年が見つめている彼女の瞳は、まるで夕暮れのように赤い。青年の金色の髪が、夕暮れの日差しに反射している。


「どうしたら、君は僕の元へ来てくれるんだい?」


青年は眉尻を下げ、困った顔をしながら首を傾げて口端をあげた。声色も物腰も優しく、決して彼女を責めているものではない。
そんな青年を前に、彼女は胸の下で腕を組む。長い銀色の髪が揺れる。


「分からないなあ。どうして君が、そこまで私という存在に執着するのか」

「君には天性の才能がある。そんな君を、埋もれさせたくない」

「どうだか」


誰が聞いても、その言葉が建前だと分かる。在り来たりな、そして見え着いたことを言う。なんともつまらない。彼女は嗤笑する。
青年はそれに気を悪くすることは無く、むしろどんな笑みであろうと彼女が笑ったことに素直に喜び、微笑みを返す。


「私は決してこの道を目指しているわけじゃない。そんな中途半端を傍に置く必要はないだろう?」


やれやれと呆れた様子で彼女はそう青年に返した。
青年は再び困った笑みを浮かべるが、その表情は段々と暗くなり、顔さえ俯かせ始める。彼女はそれを見下ろし、次の言葉を待つ。しばらく沈黙が続いたが、青年の小さな呟きがそれを破った。


「・・・・・・どうして、君は自分から、傷つきに行こうとするの」

「・・・・・・」

「どうして、台本通りに動いてはくれないの」

「・・・・・・」

「僕は、君にだけは・・・・・・」


それ以降の言葉は無かった。最後の言葉は切られ、青年の心のうちに沈んでいく。青年の青い瞳がユラユラと揺れる。その表情は悲哀に満ちていた。
そんな青年とは対照的に、彼女は優美に妖笑を浮かべた。


「――理由は簡単さ」


「でも、教えてあげない。まあ君の事だ、言わずともわかると思うがね」青年から背を向け、扉に向かって歩いていく。ドアノブに手をかけ、これで最後だと、彼女は笑みを浮かべながら青年に振り返る。


「それじゃあ、さようなら。次会う日は、最高に楽しい舞台の幕上げで会いましょう。その日まで、その日が来ると願って――さようなら」


――その言葉を最後に、彼女はこの学院から姿を消した。


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