制服のような服の上にパーカーを羽織い黒縁の眼鏡をかけた、ショートカットの紫色の眼をした少女だ。少女は何かを考えているのか、ただぼーっとしているのか、ここ数分間ガラス越しに空を眺めていた。
外の天気はお世辞にも良いとは言えない。外は雪に埋もれ、激しい猛吹雪が吹いている。空も雲が覆っていて青空なんて見えやしない。灰色の空がそこにはあった。
「フォウ!」
鳴き声がした方に目を向けるとリスのような、猫のような白くモフモフとした動物がいる。
「フー、フォウ!」と鳴くその動物は、少女を呼んでいるようだった。もう一度鳴き、廊下を駆けていく。少女は窓辺から腰を上げ、タブレットを置いて動物の後を追った。白い動物は時々後ろを振り向いて、少女が追ってきているか確認した。
廊下を進んでいくと、少女はそこで倒れている少年を見つけた。小さな動物は少年の頬を手で突いたり、目元を舐めたりと少年の様子を確認する。
少女は少年の近くに膝を折ってしゃがみ込んだ。ガラス越しに少女は少年を見つめる。
「ん……」
意識を浮上させた少年が目を覚ます。うつ伏せに倒れていた身体を少し起こして、少年は近くで自分を覗き込んでいる少女に気が付いた。
「うわっ!? ……え、えっと……君は?」
「いきなり難しい質問なので、返答に困ります。名乗るほどのものではない―――とか?」
「え……?」
少年は取り敢えず、目の前にいる少女に尋ねるが、不思議な回答をした彼女に素っ頓狂な声が漏れる。
「いえ、名前はあるんです。名前はあるのです、ちゃんと。でも、あまり口にする機会がなかったので……印象的な自己紹介ができないというか……」
少女はそう言って困った様子を見せる。そして少女は「マシュ・キリエライト」と言う名前を名乗った。
「マシュ……あ、えっと、ここは……?」
少年は首を振って辺りを見渡す。
そんな彼に、マシュは「それなら簡単です」と告げた。
「人類史を長く、何より強く存続させるため、魔術・科学の区別なく研究者が集まった研究所にして観測所――人理継続保障機関カルデアです」