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- ナノ -

Prologue


その日の夜。時間帯から夜中にあたる頃だ。
空は黒い闇色に塗られ、誰もが眠りに入っているなかに、三つの影が長く伸びていた。一人は年老いた、白く長いひげが特徴の老人。もう一人は老人の隣に立つ年配の女性。二人は一人の男と向き合って深刻そうな顔をしていた。

老人の腕には、純白の布で包まれた小さな赤子が抱えられていた。生まれてから少し経つであろう赤子は、すやすやと寝息をたて眠っている。


「むりですよ……」


やつれた男は悲痛な顔もちで告げた。


「そんな……貴方はこの子の名付け親ではありませんか」


女性は一歩足を踏み出し、赤子と男を交代に目を向けた。
女性の言葉に男は目を逸らし、首を横に振る。視界に愛らしい赤子が映る。その子を見るたびに、男の胸は悲しみや痛み、怒りに愛しさを溢れさせた。

「この子には、もう親戚はおらんのじゃ」老人が言う。
「ええ、その通りです」女性が即座に相槌を打った。


「生前、彼女は貴方を後見人にとおっしゃっていたではありませんか!」

「ええ、そうです。ですが……!」


激情する女性につられ、男は徐々に声を荒げて言った。だが言葉を切り、ため息交じりの深呼吸のような深い息を吐きだし、気持ちを落ち着かせ、あらためて言う。


「むりですよ……私には、その子を守れる自信がありません……もしもその逆があったら、それこそ彼女に顔向けできない。私にはできません……」


頑なに首を振る男の姿と痛みをこらえた声に、二人はそれ以上言うことができなかった。
「よかろう」老人はそんな彼を見かね、踵を返した。女性も慌ててその後をついていく。背中を向けられた男は、その背に投げかける。「その子は、どうするんですか?」


「孤児院にいれるしかあるまい。じゃが、もし君の気持ちが変わったら、いつでも迎えに来ると良い。彼女もこの子も、喜ぶはずじゃ」


老人は途端に姿を消す。女性も同じように。

男はしばらくのあいだ二人が消えた道を見つめていた。引き取れないという心残りはあるが、きっとこれが最善策なのだとひとり信じ、踵を返した。


10 years ago.