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――仮に、この並行世界を『世界線AWorld Line A』と呼称しよう。



風が靡く。
風が吹くたび、土埃が起こって一方向に砂がながされる。

天上の空には、太陽のような金色の光が地上を照らすが、雲がそれを覆ってしまう。まるで嵐の後のように、雲の隙間から光が差し込む。空を覆う雲は光を彩ったように、金や黄土色をしていて。空もまた、同じような色をしていた。
まるでお話によくある、天界の空のようだ。

地上には、残骸が転がる。空とは正反対だ。
残骸は全て、戦争の後の物のようだ。鎧や兜に剣、槍、そして弓。戦車やその車輪や、馬の金具。そんなものが、無数に残骸となって散らばっていた。激しい戦いの後だ。

ああ、まるで。遥か昔の旧き古の時代であった、在りし日を再現したかのようだ。

だが、不思議と死体はなかった。
人ひとりいない。


――いや、たった一人いた。


白い衣を纏った男だ。その男の肌は黒く、髪も瞳も同じ色。そんな容姿のせいか、身を纏る白い衣は一段と目を引く。
白い手袋の先には、大きな弓を携えていた。不思議な弓だ。

その男は一点を見つめている。俯きがちに、直立姿勢で。とある一点を。
その場所には、やはり何もない。あるのは残骸だけだ。馬の金具に、槍に、折れた弓矢に。そして、車輪が外れ倒れ伏した、戦車。
ただのそれだけ。他の残骸と何の変りもない。

しかし、男にとっては違うのかもしれない。


ふと……一段と大きな風が吹く。すると雲が晴れ、天上からの光が男に降り注いだ。
男は空を見上げる。太陽のような光を睨みつけるが、やはりそれとは違うと理解し、瞼を閉じる。

手を伸ばす。
白い手袋と白い衣に覆われた腕を、ゆっくりと持ち上げる。


意志はない。自分から望んだわけではない。
ただ、答えただけだ。その声に、応じただけなのだ。求められるがままに。されるがままに。

ただ少し、期待しているとすれば――――このわが身に永遠の孤独を。





Prologue -A-

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