×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
夜。魔術師ならば、この冬木で刺すような魔術がところどころに感じるであろう。
日が落ち月が昇った時刻、ディーアは人通りの少なくなった道を歩いていた。


「ディーア」


霊体化をして自分の後ろを付いてきているカルナが、思考に直接かたりかけてきた。
自分は周りに人がいないことを良いことに、自分の口から言葉を語った。


「ん? なに、カルナ」

「あちらでサーヴァント二騎が戦闘を始めている。他のサーヴァントも近くにいるようだ」


早速、ことは起きているらしい。
ディーアはマスターの顔は知っているが、サーヴァントの顔は知らないでいた。情報収集的にも傍観者として行くべきだろう。

それでは行こうと声をかければ、カルナは霊体化を解いて現れる。そのままディーアを横抱きし、地を蹴る。
電灯や家の屋根などをつたって目的場所を目指すと、そこは倉庫街だった。倉庫の影に到着し、上から戦闘をのぞく。

二つの槍を持つランサーとセイバー、そしてその後ろにいる女性がいた。


「なるほど、ランサーとセイバーか……アサシンもいるな」


二騎のサーヴァントを見据えたカルナがそう零す。クラスは明白だ。
しかし、セイバーの武器は透明になっており大きさも幅もわからない。


「えぇ……カルナ、あれ、どう見る?」


目に留まった、セイバーの後ろにいる真っ白な女性についてカルナに聞く。
自分の容姿を差し置いていうのも何だが、あまり人間味のした容姿ではない。


「……人ではないな」

「ならアインツベルンのホムンクルスか。令呪も見えない……ほかにマスターは」

「見えんな。だが、近くにいるのは間違いないだろう」


カルナの言う通り、サーヴァントとマスターは基本的に傍にいるだろう。単独スキルを持つアーチャーをのぞいては、だが。
ディーアは周りの警戒をカルナに任せ、セイバーとランサーの戦いの観察を続行した。



一方、倉庫街より遥か離れた冬木協会。

その地下室で聖杯戦争に敗退し、協会に保護された“事になっている”言峰綺礼は、遠坂時臣から伝授された『共通知覚』の魔術を使い、アサシンが見届けている光景を共有していた。


「未遠川河口の倉庫街で、動きがありました。いよいよ最初の戦闘が始まった様子です」


綺礼は目の前の蓄音機――遠坂家の宝石魔術を利用した魔導器に向かって、そう告げた。
すると蓄音機から、時臣の声が放たれる。


「最初、という言い分はあるまい。公式には『第二戦』だよ、綺礼」


綺礼は、時臣の指示で聖杯戦争を敗退するという茶番を行い、敗退者の振りをして、隠密活動を行っているのだ。
綺礼は時臣に淡々と報告を続けた。


「戦っているのはどうやら……セイバー、それにランサーの様です。とりわけセイバーは能力値に恵まれています。大方のパラメーターがAランク相当と見受けられます」

「……成程な。流石は最強のクラス、といった所か。マスターは視認出来るか?」

「堂々と姿を晒しているのは、一人だけ。セイバーの背後に控えています。銀髪の女です」

「ふむ、ならばランサーのマスターには身を隠すだけの知恵がある、と。素人ではないな。この聖杯戦争の鉄則を弁えている――待て。セイバーのマスターだが、銀髪の女だと?」

「はい。白人の若い女です。銀髪に紅い瞳。どうにも人間離れした風情に見えますが」


綺礼の報告に、時臣は暫し無言になったあと漸く口を開いた。


「アインツベルンのホムンクルスか。またしても人形のマスターを鋳造したのか。有り得ぬ話ではないが……」

「ではあの女が、アインツベルンのマスターなのですか?」

「ユーブスタクハイトが用意した駒は衛宮切嗣だとばかり思っていたが……まさか見込みが外れるとはな。兎も角、その女は聖杯戦争の趨勢を握る重要な鍵だ。綺礼、決して目を離すな」

「……了解しました。では常時、“一人を付けておく”ことにします」


謎めいた言葉を口にし、綺礼――アサシンは引き続きセイバーとランサーの戦いを監視した。



一方。時を同じくして、積み上げられたコンテナの山の隙間でセイバーとランサーの戦いを監視する者がいた。

ワルサー狙撃銃を手に常に闇の中を監視する、衛宮切嗣。
彼こそが、セイバーの正式なマスターである。アイリスフィールはあくまで『囮』なのだ。恐らく今この場にいる、または監視しているマスター全員が騙されているに違いない――ディーアを除いて。

そして、切嗣とは反対側の位置に陣取っている人物――久宇舞弥。彼女は切嗣の忠実な部下であり、魔術師の世界で言うならば切嗣の“弟子”にあたる。
切嗣と舞弥。二人は口元にあてたインコムを使い、通信を交わす。


「舞弥。セイバー達の北東方向、倉庫の屋根の上にランサーのマスターがいる。見えるか?」

「……いいえ。私の位置からは死角の様です。殺しますか?」

「いや、それよりも……舞弥、クレーンの上だ」

「はい。こちらも今視認しました。読み通りでしたね」


切嗣が第三の監視者。アサシンの姿を見つけ、舞弥もそれに応じた。あの遠坂邸でのアサシンの敗退は、切嗣は完全に茶番だと見破っていた。


「舞弥、引き続きアサシンを監視してくれ。僕はランサー観察する」

「了解」

「……では、お手並み拝見だ。かわいい騎士王さん」


切嗣がそう呟きスコープを覗いた。スコープの先には戦闘を繰り広げるランサーとセイバー。
そのまま観察を続けるはずだったが、切嗣はとある二つの影を捕らえた。すぐさまそちらにスコープを向ける。


「舞弥、僕の反対側に人がいる。見えるか?」

「……はい。サーヴァントとマスターでしょうか」


アサシンやランサーに気を配りながら謎の二人を観察する。一人は女、サーヴァントらしい奴は男だ。どちらも銀髪で、アイリスフィールとはまた違う色だ。
スコープ越しに切嗣が二人を観察していると、不意にサーヴァントがこちらを捕らえた。


カルナは注がれる視線のほうに目を向けた。


「ディーア、何者かに視られている。一度死角になる場所へ移動しよう」

「わかったわ」


カルナは早々とマスターの安全を確保するため、ディーアを抱えて視線から逃れた。死角になる場所へ行かれてしまえばそれまで。
ディーアたちは死角になる場所で再び観察を始める。
目標を失った切嗣たちは元の目標の観察に戻るが、その二人の警戒も怠らなかった。



夜闇の交錯

prev | next
table of contents