……という、朝にもらったランサーからの助言に従い、アリーナを後回しにして学園内にいるマスターたちに話しかけた。
情報はそう簡単には集まらないが、損をすることはない。中にはポロッと自分の情報を言ってしまうマスターもいる。
そうして学園内を歩き回っていると、少し先の廊下で誰かと話し込んでいる慎二を見つけた。
「何やら険悪だな」
ランサーの言う通り、彼らは険悪な雰囲気を纏っていた。話している遠坂凛は不敵な笑みを浮かべ、慎二は顔を赤くしている。
聞き耳を立てていると、慎二が過ってサーヴァントの情報を吐いてしまったらしい。
「艦隊」と慎二は吐き、「多分クラスはライダー」「なら物理攻撃ね」「無敵艦隊は?」等と凛は予想を立て、対策を立てる。
情報が洩れればその対策をたてられてしまう。個々の力が強力である以上、一方的に対策をたてられてしまえば勝敗は明かだ。
それを改めて思い知らされ、未熟な自分に一切自分の力を話さないランサーにも再度納得する。
慎二は凛に言葉を吐き捨てると踵を返してこちらに向かってくる。
隠れようとしていたわけではないため、当然彼に見つかってしまう。
「おまえ……! まさか、ずっとそこで見てたわけ!? まぁ、どうせ君じゃ敵わないけどねぇ? せいぜい頑張れば?」
最初は怒りを露わにしたが敵うわけないと決めつけ、そんな言葉を向ける。慎二はそのまま去っていく。
彼の後ろでは「まったく、緊張感のないマスターね」と彼女が呟いていた。
呟いた後、必然的に彼女と目が合う。
「そういえば、貴方からまだ名前きいてなかったわね」
「……神楽耶夜月」
「そ。あなたも頑張ることね、神楽耶さん?」
わざとらしい笑みを浮かべ彼女は横を通り過ぎていく。夜月その様を特に意味もなくぼんやりと眺めた。
図書室へ行こう。あそこなら調べごとに最適だ。思い立ったが吉日と、早速2階の図書室へ向かった。
二丁拳銃――。
無敵艦隊――。
昨日のアリーナと、先ほどの遠坂凛と慎二の会話から得られた情報を探すため図書館の中を練り歩く。口を閉ざして書籍を漁ること数分。
「無敵艦隊」と書かれた背表紙を見つけ、棚から引く。
無敵艦隊。大航海時代におけるスペイン海軍の異名。
千トン級以上の大型艦100隻以上を主軸とし、合計6万5千からなる英国征服艦隊。スペインを「太陽の沈まぬ王国」と謳わしめた。
厚い本の中から関りのありそうな一節を立ち読みする。
具体的な英霊の名はこれだけの情報からはまだ特定できないが、海軍か海賊か。いずれにせよ、彼女はおそらく海に関係する素性の英霊なのだろう。
慎二が「彼女の無敵艦隊」という言葉を用いた以上は間違いない。彼は頭がいいけれど、肝心なところで狡猾になりきれないという、幼いところがある。
「また一つ情報を得られたな」
「えぇ、そうね」
霊体化をしたまま話しかけてくる。
ランサーの声は自分にしか聞こえないため、口で受け答えをしても周りからは独り言をしているように見える。
「マスター、この後はどうする」
「取り敢えず、もう少し回ってからアリーナへ行こうと思うわ」
「承知した」
パタン、と厚い本を片手で閉じた。