モゾモゾとシーツから手を出して、枕元に置いておいた端末を手に取った。
【二階、掲示板にて対戦相手を発表する】
短い文が画面に表示されていた。
今日から始まる7日の猶予期間。それをどう使うも自分次第だ。
夢は見なかった。眠れば何か記憶のかけらを見ると思ったが、そう簡単にはいかないらしい。
そうした落胆を胸に抱えながら、ゆっくりとベッドから起き上がった。
「目が覚めたか?」
声に反応して顔を向けると、霊体化を解いたランサーがベッドの横に現れた。
夜月が頷くと「なら、掲示板へ向かうとしよう」とだけ告げ、また霊体化をする。
ベッドから降り、脱いでいたブレザーを羽織って早速、二階の掲示板へと足を進めた。
掲示板までは時間がかからない。マイルームは二階で階段に近く、掲示板はその階段の横だ。
教室一つを横通り、掲示板にたどり着く。
掲示板に貼られた紙を眺め、自分の名前と対戦相手の名前、そして決戦場が目に入る。
決戦場は一の月想海。
対戦相手は間桐慎二。予選での仮初の学園で、彼とは友人の仲だった。それが偽りでも、楽しかった記憶がある。
「へぇ、まさか君が一回戦の相手とはね。この本戦にいるだけでも驚きだったけどねぇ」
いつの間にか隣に来ていた慎二が嗤笑を交えながらそう言った。
相も変わらず、人を見下す態度はいまだ健在らしい。
彼はそれからペラペラと舌を動かした。こちらが黙っていても、彼の話は終わらない。
「ま、正々堂々戦おうじゃないか。僕らの友情に恥じないように。結構いい勝負になると思うぜ? 君だって選ばれたマスターなんだから」
嘲笑を携えながら慎二は去っていく。性格の悪さも変わらない。
第一回戦では彼と戦う。それが事実であり、現実だ。
仮初だったとはいえ、友人として付き合っていた人と言葉通り殺し合うのだ。その事実が悲しい。哀しい。
頭にノイズが走った。
脳裏には砂嵐が浮かぶが、視界が悪くてまた何が映し出されているかわからなかった。
夜月がそれに気を取られ、額に手を当てた直後。背後から霊体化をしたランサーが声をかけた。
「どうかしたのか、マスター」
「……いえ、何も」
頭にはもう何も浮かばない。
額から手を離す。歩き出そうと足を前に出すと不意に端末が再び鳴った。
【第一暗号鍵
そこに書かれた文字の意味を夜月は理解できなかった。詳しく言うと、正確にわからないだ。
なんとなくという曖昧な記憶にあるが、あまり頼りにはならない。
まずはこれについて聞くため、また神父を探すため歩き出した。
見つけ出した神父に暗号鍵
なんの悪戯か。先ほど会ったばかりだというのに。
「お、神楽耶。お前もトリガーを取りに行くのかい? 悪いけど、僕もこれから行くところさ。お前みたいなノロマには取れないかも知れないけどさ、せいぜい頑張んなよ。あはは!」
再び彼の嘲笑を貰いうけ、いうだけ言うと慎二はさっさとアリーナへ向かって歩いて行った。
彼の姿が見えなくなると、周りに人がいないためかランサーは霊体化を解いて現れた。
「あまり、性格が良いとは言えんな」
「そうね。でも慣れているから平気よ」
「慣れるほどあの男に侮辱されたのか?」
直球なランサーの問いかけに、少しばかり困った顔で笑い「多分……?」と疑問形で答えた。
ランサーはその言葉に応えることは言わなかったが、少しだけ眉間にしわが寄っていた。
「マスター、俺たちもアリーナへ向かうとしよう」
夜月は頷き、慎二の後を追うようにアリーナへ足を運んだ。