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- ナノ -
言峰という神父を探すがてらに学園内を探索する。
此処にいる人は予選を進んだマスターであり、NPCやAIはちらほらといる程度。マスターの数ほどではない。
保健室の一階から探索をして、ついに最上階へたどり着いた。

屋上には人がいなかった。空は電子的な青で0と1の数列が浮いている。
観察するように辺りを見渡して屋上を歩いていると、赤い服を着た黒髪の少女がいたことに気付く。何処かで見たことがある。
彼女もこちらに気付いたらしく、振り返った。最初こそ鋭い視線だったが、だんだん柔らかな視線へと変化していった。


「丁度いいわ、まだキャラのほうは調べてないものね」


キャラ、とはどういうことだろうか。そんな疑問を浮かべている間に少女は「ちょっと、そこのあなた」と夜月を呼ぶ。
声に応じて少女に目を向ければ細い指が目の前まで伸びてきており、両手で頬を挟んだ。


「へぇ、低いけど体温はあるのね。生意気にも」


驚いて固まっている夜月に気付かず、少女はペタペタと体を触る。


「あなた、手の凝った容姿ね。NPCは全部平凡って訳じゃないのかしら」


その言葉でやっと彼女がなにを勘違いしているのか理解できることとなる。つまり、彼女は自分のことをNPCと思い込んでいるのだ。
話を切り出そうとしても少女は調べる事に夢中で耳を傾けてくれない。
どうしたものか、と悩んでいると少女は手を引っ込め誰もいない背後に振り返り、会話をしていた。霊体化をしたサーヴァントだろう。

そのサーヴァントが何かを言ったらしく、勢いよく振り返った彼女がわなわなとこちらを指さした。


「あ、あなたマスターなのっ!?」


肯定を含め、苦笑する。
そこで彼女は自分がどれだけ恥ずかしいことをしていたのか気付き、赤面して悶えた。
その様子を見て、こちらまで申し訳なくなってしまう。


「た、確かに目立った容姿だけど、あなた薄いのよ! ふわふわして、抵抗ぐらいしなさいよ!!」


恥ずかしさに身を任せて怒鳴り散らされる。
そんなに目立った容姿だろうか、と夜月は自分の髪を触る。銀髪に灰色のような銀のような瞳。
目立つ方かと納得する。


「あなた、ここが戦場だってわかってる? そんなふわふわした状態じゃすぐに死ぬわよ。まだ寝ぼけて、ここがどういう所か知らないんじゃないの?」

「確かに、記憶は何故か曖昧ね」

「はあ?! なんで! それ、やばいわよ? 戦う理由も持たないまま参加するなんて……まあ、だけど……聖杯戦争で勝者はたった一人。そんなんじゃあなた、何処かで脱落するわね」


彼女の心配げな声が急に冷めた。
目の前にいるのは聖杯を奪い合う敵。その事実を思い出したように。否、此処にいる全員が聖杯戦争の敵なのだ。


「彼女の言う通り、この戦いに勝ち残れるのはただ一人だ。曖昧な記憶に不安を覚えるのもわかるが、まずは生き抜くことを考えたほうが良いだろう」


ランサーの冷めた声が背後から響く。これは忠告だ。
彼女は勝てないと言った。しかし、そんな気はしなかった。侮っているわけではない。油断をすれば呆気なく負けるだろう。
散らばったピースが当てはまらないことに嫌気を感じ、夜月は屋上を後にした。



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