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とうとう六日目。決戦前日である。
夜月たちはその日、図書室へ行って情報を集めた後、マイルームに戻っていた。ベッドに腰を掛け情報を整理していたところ、不意に思いだす。


「そういえば……ランサー」


椅子に座らず、壁に体重を預けながら立つランサーを呼びかければ、「なんだ?」と瞼をあげて夜月を見る。


「先日、弓が得意と言っていたけど……アーチャーの適性を持っているの?」

「あぁ。生前、俺は弓を扱っていてな。弓に関してなら俺にも自信がある。槍も使っていたが……生憎、生前でこの槍を振るったことは一度もない」


驚いたその言葉に「そうなの?」と聞き返せば、いつものように「あぁ」という工程の言葉が返ってくる。
応えてくれるかは分からないが、夜月は好奇心旺盛に尋ねる。


「他にも何かあるの? 得意なこと」

「得意、か……得意かは分からないが、ライダーとしての適性も持っている。生前は戦車で戦っていたからな」


思わず夜月は感嘆の声をあげた。
このランサーは弓が第一に得意と言っても巧みに槍を使い、そして戦車まで扱えるというのだ。
自分には勿体ないぐらいの英霊。それを目の前にして、感激せざるを得ない。


「ランサーはいろんなことができるのね!」

「そうでもない。クシャトリヤとして、当たり前のことだけだ」


ランサーは少し表情を和らげながら言った。
夜月にはクシャトリヤという単語の意味は分からなかったが、そのまま受け止めて「そう?」と首を傾げる。ランサーは「そうだ」と首を縦に振る。

夜月は一人でそうなんだと納得し、感嘆に浸る。
そうしているうちに頬が緩み、「ふふ」と口から笑みがこぼれた。


「ん? 何故笑う。何かおかしなことでも言ったか?」


訝しげに聞くランサーに、急いで違うと否定する。


「自分で聞いといてだけど……ランサーの事、少しだけ知ることができて嬉しいの!」


その言葉を聞いた途端、ランサーは目を丸くした。その目の前には、無邪気に嬉しいのだと笑みを浮かべる夜月。
彼女は続けて「それに、貴方の口から聞けてなお嬉しいわ」などと付け加えた。

そんな彼女を見たランサーは、珍しいことを口にした。


「……なら、今度はお前のことを聞こう」


珍しい言葉に、夜月はつい聞き返した。
目を丸くして、自分を指させば、ランサーはそうだと頷く。


「そうだな……では、マスターの得意なことでも聞こう。ダメか……?」


小首を傾ける。それにすぐさま「ダメではないわ」と答えた。
夜月は顎を指で挟み「でも、そうね……」と思考を巡らす。


「得意……諦めの悪さかしら?」


そう答えれば、ランサーはフ……と笑んだ。


「それに関しては既に知っている。マスターの粘り強さは俺の折り紙付きだ」

「ふふ。そう、ありがとう」


それは嬉しいわ、と朗笑した。


「あとは、そう……紅茶を淹れること。ある人からさんざん淹れてもらって、教えてくれたの」


記憶をたどって、その時のことを思いだす。夜月にとって大切な思い出。
無自覚に、思い出に浸っている夜月の口元は懐かしみや喜びで緩んでいる。
それを見たランサーは、よほど大切で思い入れのあるものなのだと察した。


「そうか。きっと、お前の淹れるそれは美味いのだろうな」

「なら今から淹れるわ!」


ランサーの言葉を聞くなり目を輝かせた夜月。いつも以上に言葉に勢いがあった。思わずランサーも目を見張った。
夜月は早速腰を上がらせ、ランサーに「少し待っていて!」と伝えて紅茶を淹れに行く。

カップやポットはシステムから生成すればいい。茶葉やお湯は、マスターの娯楽として購買やらで売っている。
ちゃんとした手順で丁寧に紅茶を淹れる。優美な香りが部屋を包み、カップ2つに紅茶を注ぎ、ミルクや砂糖が入ったものを用意してテーブルに置く。

未だ立ちつくしているランサーの手を引っ張り、椅子に座らせ、自分はその向かい側に腰を下ろす。


「どうぞ、ランサー」

「貰おう」


紅茶を差し出す。
さっそくそれを受け取り、口に含むランサーを夜月はじっと見つめた。
その姿はまるで、親に料理を教えてもらった子供がその親にもてなしをするようだ。


「……どうかしら……?」


身長に聞く夜月。
ランサーは口元からカップを離し、ふっと息を吐く。


「あぁ……美味い。ありがとう、マスター」


目を細め、頬を緩ませて笑んだランサー。
それを見て、夜月はパアァっと喜びで笑顔を見せた。


「ほかにも、砂糖を入れたりミルクを入れたりしてもおいしいのよ」


テーブルの中央に置いたミルクと砂糖を見て言う。


「お前はどれが好きなんだ?」

「私はミルク。ミルクティーが一番好きなの」

「なら、俺もそうしよう」


カップを受け取り、ミルクを適量入れて混ぜた後、自分のものにも同じことをする。
ランサーにそれを返し、また同じように彼の感想を持った。


「どう……?」

「舌触りが滑らかで、柔らかい味だ」


夜月は「そうでしょう!」と嬉しそうに答えた。
それから好きな茶葉やミルクに合う紅茶の話、異国ではジャムを入れて飲むこともあるという話を、夜月は子供のようにつらつらと言葉を繋げた。

その様子を、まるで見守る兄や父のように温かな目で見つめるランサー。
その視線に気づけば、夜月は恥ずかしそうにはにかんだ。


「はしゃぎすきたかしら……」

「なに、気にするな。お前が子供のような一面を見せるのは初めてだからな。新鮮だ」


確かに、此処まではしゃいだのは久しぶりだ。
夜月はあまり見ないランサーの笑顔を見れたから、恥ずかしい一面を見られても良かったと思った。


「これで、俺もマスターについていくつか知ることができた」


また一口紅茶を飲んだ後、ランサーはそう言った。
夜月が呟いたランサーを見れば、彼はカップを置いて、真っ直ぐと優し気な瞳で夜月を見つめる。


「お前は――綺麗だな」


これは今感じたことではなく、彼が今まで感じたことだ。
ボロボロになりながらも立とうとする姿。努力しようと手を伸ばす精神。敵の死を、友の死を悲しみ涙を流す心。真直ぐと相手を見つめ、理解しようとする人柄。
そのほかの全てを、ランサーは綺麗で美しいと感じていた。

夜月は目を丸くして見張った後、頬を緩ませ視線を逸らした。


「貴方のほうがよっぽど綺麗だわ、ランサー」




Sixth day

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