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2回戦 開幕――。


今日からまた始まる2回戦目。その猶予期間の一日目だ。
夜月は今日、まだマイルームからは出ずに窓を眺めていた。その様子はぼんやりとしているようにも、考え事をしているようにも見える。
それは1回戦を終えて変化した目つきのせいかもしれない。

いつまでも窓を眺めているマスターに見かね、黙って待っていたランサーが口を開いた。


「あまり気に病むな。いくら気にかけたところで、それは変えられない事実だ。立ち止まっている暇はないぞ、夜月。友の死を憂うのなら、その死を無駄にしないことだ」


きつい言葉かもしれないが、これは彼なりの気遣いだということを夜月は既に知っている。
本人に励ました意思がないとしても、彼がそういう人だという事は理解していた。


「そうだね、ランサー……ありがとう」

「礼を言われるようなことはしていないが……」


それにクスリと笑う。
今度こそマイルームを出ようと下ろしていた腰を上げ、扉の方へ向かった。扉に手をかけ出て行こうとしたとき、ランサーが「夜月」と呼ぶ。
夜月は振り返った。


「お前の終わりたくない生きたいという思いが、俺をおまえ此処へ導いた。お前が望むのなら、お前が何者であったとしても、俺は庇護し続けよう」


真っ直ぐな青い瞳が少しくすんだラブラドライトの瞳を射貫いた。
彼が何を思い、何を悟り、何を知ったのかは知らないが。正直に、的を付いた言葉だと思った。
夜月がそれに応えるように笑む。同時に無機質な電子音が響いた。



掲示板まで出向き、張り出された紙を眺める。
決戦場は二の月想海。対戦相手はダン・ブラックモア。その文字をしばらく見つめていると、背後から低い声がかかった。


「……君か、次の相手は」


隣に並んだ老人。混じりけなく白い髪。鋭い響きは持たずどちらかと言えば穏やかな声音をしているが、聞く者の背筋を伸ばす声だ。
老人はじっと夜月を見て、観察した。夜月も臆することなく、真っ直ぐにその視線を返した。

そうして数分。静かに口が開く。


「若いな。実戦の経験値も無いに等しい……いや、それは間違いか。案山子同然にしては不思議と迷いはない。だが、その『思い』を持って戦場に赴くとは……不幸なことだ」


老人はそれだけを言い口を閉ざすと立ち去ってしまう。
立ち去る背中を見つめていた夜月に、今度はランサーが口を開いた。


「戦闘経歴からの洞察力と自信か。今回の相手は前回と格が違う。油断するな、マスター」


それに静かに頷いた。
さて、対戦相手は確認した。次の行動をどうするかと考えていると、ふと遠坂凛を思いだした。言葉とは反対に色々なことを教えてくれる。
まずは彼女のもとへ向かおう、といつも居る屋上を目指した。


屋上へ行けば案の定、彼女はそこにいた。
そしてなんだかんだと言って対戦相手のダン・ブラックモアの経歴や彼自身の逸話について語ってくれた。
凛は、肩をすくめて冗談めかしながら言った。


「あんたの宝具がどんなに強くても、このままだとあっさりサー・ダンに殺されるでしょうね」

「……あぁ、宝具か」

「まさか……持ってないなんて言わないわよね」


訝し気に聞いてくる彼女に、もちろん持っているでしょうと答える。そのまま背後に視線を送れば、夜月にだけ聞こえる声で「あぁ」と答える。
凛は「そうよね」と息を吐く。


「まぁ、使ってはないけれど」

「え」


弾かれたように夜月を見る凛。夜月は首を傾げ、彼女を見つめた。
どうやら凛は、サーヴァントの宝具が強くて慎二に勝利したと思い込んでいたらしい。それは違うと問いただせば、彼女は「少しは見直した」と薄く笑う。


「あ、それと倒した相手だからってチェックを怠るのもマイナスよ。何かの助けになるかもしれないから、暇を作ってマトリクスを見ておきなさい」

「えぇ。ありがとう、凛」

「……ふん!」


そっぽ向く凛に、夜月は笑顔でお礼を述べた。
助言は貰った。一旦マイルームに返ってマトリクスを確認してからアリーナへ行こう。
屋上を出て、夜月はマイルームへ向かい歩き始めた。


マイルームにつき、椅子に腰をかけ端末からマトリクスを開く。
しばらくそれに読みふけ、すべて読み終えアリーナへ行こうと立ち上がる。


「俺の宝具について、何も聞かないのか?」


顔をあげるとランサーはこちらを見ながらそう問いかけていた。
夜月は端末をしまいながら答える。


「宝具はそのサーヴァントの真名に関わるでしょう。なら、私はまだそれを知らないほうが良い」


先日、彼に真名を聞いた時に情報が漏れないようにと彼は真名を語らなかった。そそて、それに自分も賛同した。
宝具はそれに深くかかわる。英雄たらしめるものだからだ。

ならば聞かないほうが良い。そう答える彼女にランサーはやや遅れて「そうか」と口を開く。


「一言ぐらいは言われると思ったが」

「まさか。でも、いつか話していいと思えたら、貴方の口から聞きたい。かな?」

「あぁ。無論、その時はお前に話そう」




First day

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