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アナタのために在る


 チュンチュン、と小鳥がさえずる。

 朝を迎えたことを小鳥たちが知らせ、くちばしで窓をノックする。

 小鳥たちに起こされたオーエンはあくびをしながらベッドから起き上がった。カーテンを開けて窓を開ければ、小鳥たちがさえずってオーエンの周りに集まってくる。指に止まった小鳥を指の背で撫でれば、気持ちよさそうにして頭を摺り寄せてくる。

 ベッドから降りると、オーエンは呪文を唱えて一瞬で身支度を済ませてしまう。いつも通りの白いスーツを纏い、肩から真っ白な外套をかけ、帽子に手袋を身につける。オーエンはそのまま自室を出て、住み慣れた静かな隠れ家を後にした。

 相変わらずオーエンは、賢者の魔法使いとして一年に一度世界に降り注ぐ〈大いなる厄災〉を追い返す役目を補っていた。共同生活を提案した賢者は役目を終えてどこかへ消えてしまい、また次の賢者が現れては消えて、を何度も繰り返している。世界は変わらず〈大いなる厄災〉に怯え、人間と魔法使いが共存している。変化しているといえば、徐々に魔法使いへの差別が無くなっていったことだろうか。南の国は元から人間と魔法使いたちが協力し合う国だったが、中央の国を筆頭に魔法使いへの認識が変化してきている。しかし土地に厳しく魔法使いの加護無しには生きられない北の国では、相変わらず人間たちは魔法使いを恐れていた。オーエンとしてはそちらの方が生きやすく、他の北の魔法使いたちにとっても居心地が良かった。

 以前は賢者に言われて仕方なく魔法舎で共同生活をしていたが、その賢者が役目を終えてどこかへ消えてしまってからは、またいつも通りの生活に戻った。とはいっても、ほとんどの魔法使いたちは魔法舎での共同生活を今でも続けていて、出て行ったのはオーエンくらいだった。そのオーエンも、頻繁に魔法舎へ立ち寄ってネロに甘いものを作らせたりカインに悪戯を仕掛けたりして、以前とあまり変わりない日々を過ごしている。頻繁に尋ねてくるのなら魔法舎に戻ればいい、とスノウやホワイトがオーエンを一度だけ誘ったが、それ以上は口に出さなかった。

 オーエンは行き慣れた中央の国に降りた。足を地面につけ、乗っていた箒を魔法で仕舞う。

 以前は北の国の魔法使いを見ただけで怯えた顔をした人間たちだったが、アーサーたちの努力の結果か、今ではどの魔法使いでも笑顔を浮かべて歓迎する。その温かい受け入れが未だに気持ち悪く、居心地が悪い。

 扉を開けて、店の中に入る。いつも座っている席に座って、メニュー表に並んだケーキを端から端まで注文する。

 今のところこの店がオーエンのお気に入りだった。比較的他のケーキよりも甘く、種類も多く、入れ替わりが多い。中央の国に来ては立ち寄っていた。テーブルいっぱいに並べられたケーキを頬張り、ミルクに砂糖をたっぷり入れた紅茶を飲む。見ているだけで胸焼けをしてしまいそうな光景だ。テーブルに出されたケーキを全て平らげ、満たされた空腹にオーエンは満足感を味わう。

 上機嫌のまま店を出て、次はなにをして遊ぼうかと笑みを浮かべる。このまま魔法舎へ向かってカインやミチルたちに悪戯するのも面白いし、街の人間たちを揶揄ってやるのも楽しい。

 行き交う人混みの中へと足を一歩踏み出したとき、ふいに外套の裾を引っ張られた感覚がした。


「にゃあん」


 立ち止まって、ゆっくりと、視線を下ろした。

 足元には、まだ小さい仔猫がいた。まん丸な瞳でこちらを見上げて、人懐っこくスリスリと身体を足に摺り寄せてくる。

 オーエンは仔猫を両手で持ち上げた。

 身体の小さな仔猫。ふわふわの毛並みは柔らかく、陽の光に反射して毛色は金色に輝いている。
 抱き上げられた仔猫は、目元を和らげて、まん丸な瞳にオーエンを映し出していた。


「にゃあん」


 高い声音で、仔猫は嬉しそうに鳴き声を上げる。

 ふ、とわずかに口端を上げた。そっと細めた瞳に仔猫を映して、視線を合わせるようにツンと鼻先を触れ合わせて。オーエンは目尻を下げて笑った。


「僕は犬の方が好きだって言っただろ」


 にゃあん、と幸せそうに仔猫は泣いた。









――砂糖菓子はビン底にて END.