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ジャムに砂糖を溶かして


 完成した試作のお菓子を作り上げ、両腕を上へあげて背筋を伸ばす。今日はお店の休業日だ。休日を利用して、住居のキッチンを使ってお菓子作りに勤しむ。作ってみたのは一口サイズのお菓子で、素手で食べられるようなものだ。サクサクしたものの間にクリームを挟んでいる。サクサクしたものやクリームは色とりどりで、とてもカラフルで様々な味がする。完成したそれらをお皿いっぱいに盛り付けたところで、ふとリビングの方へ目を向けた。リビングに設置してあるソファの上には、仰向けに寝転んで気怠げに本を広げているオーエンがいる。

 熱風邪を引いて寝込んだ日以来、オーエンの外出が減った。昔からふらっと居なくなってはいつの間にか帰ってきていることが多かったが、日をまたいで帰ってくることは少なく、大抵はその日に帰ってくる。外出しない日も多かった。けれどここ数百年は、一気に外出が増えた気がする。とくにここ最近の数十年は頻度が増した。朝から晩まで居なくなることが増え、数日後に帰ってくることも多くなった。それが、ぱったりと何も無かったかのようになくなった。むしろ外出を控え、なるべく家の中にいるように見えた。出かけても食糧の調達だったり、近所の散策ぐらいで済んでいる。

 そんなことを思いながらぼんやりとオーエンを眺めていると、視線に気づいたオーエンがなに、と本から目を離して視線を向けてくる。


「最近、よく家にいるなあって」


 単純な疑問を尋ねれば、オーエンはなにか言いよどむように視線をさまよわせた。それから「別に、出掛ける用事がないだけ」と素気なく答える。なにか理由があるのではないかと探ることもせずふーん、と頷いて、出来上がった試作のお菓子をもってオーエンのもとへ行った。オーエンは身体を退けてくれないようで、ごくごく当たり前のように上向けに寝転がったオーエンの上に乗りあがって、胸元にお菓子を抱えるように腕を乗せて横になる。オーエンは鬱陶しそうにしながらも、片手は落ちないように腰に添え、本を持った手を邪魔にならないように上にあげた。

 ご機嫌にニコニコと笑いながら、お菓子をつまんでオーエンに差し出す。甘い匂いが漂うそれを、オーエンはパクリと頬張った。サクサクした食感と口の中で広がるクリームの甘さに、オーエンは子供のように目を輝かせて上機嫌になっていく。飲み込んだのをみたあと、続いて同じようにお菓子を差し出していく。なんだか餌付けしているみたいだ。

 ふいにオーエンの瞳が見上げてきた。


「なに。なんでそんなに嬉しそうなわけ?」


 鼻歌を歌いだしてしまいそうなほど喜んで締まりのない表情を浮かべるクララに、今度はオーエンが疑問をぶつける。クララはぱちぱちと瞬きをしたのち、さらに嬉しそうに無邪気に笑顔を浮かべた。


「うん。だって、オーエンと一緒にいれる時間が増えたんだもん」


 ネコみたいに目を丸めた真っ赤な瞳が見つめてくる。

 すこし、寂しかったのだ。お菓子屋を開いているから人はある程度尋ねてくるが、北と西の境目である此処へやってくる人は少ない。昔は好き勝手遊びまわっていたが、親しい人ができたわけもなく、オーエンを拾ってからは全く外との関りが希薄になってしまった。オーエンくらいしか、親しい間柄は居なかったのだ。そんなオーエンが此処を出ていってしまうと、本当にひとりきりになってしまう。自分の方が年上でこんなことを言うのは恥ずかしくて直接口にすることはできないが、寂しがり屋性分であるクララにとって、それは耐えがたい。

 ありがとう、と至極嬉しそうに言う。


「・・・・・・べつに。おまえのためじゃないから、勘違いしないで」
「うん!」


 本当に分かっているのだろうか。元気に返事をして頷くのを見て、不満そうに顔をしかめた。

 もう一度、甘いお菓子を差し出される。自分好みの甘さに作られたそれを頬張れば、満足そうに破顔した。口の中にふんわりと広がる甘味が、ドロドロに溶けたように一層甘く感じた。