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ミルクと反故


 以前に双子のもとへ尋ねに行ったのは、どれくらい前だっただろうか。十年くらいだろうか、もしかしたら数百年前かもしれない。
 
 オーエンは前回と同じように、箒に乗って現在双子が守護する集落へ向かった。集落から街へと変わった氷の街に降り立ち、双子の屋敷へ無遠慮に踏み入れる。室内へ入れば、魔力を察知してオーエンが此処へ来ることを知っていたスノウとホワイトが、お茶を飲みながら呑気に迎い入れた。オーエンも一緒に飲むか、とホワイトが尋ねたが、オーエンは返答することなく早々に本題を投げかける。


「スノウ。おまえは、自分が殺した片割れをどうやって繋ぎ止めた?」


 瞼を閉じて優雅に紅茶を啜っていたスノウが、静かにオーエンを見つめた。そっと唇をカップから離し、両手で丁寧にカップをソーサーに置く。ホワイトはとくに気にした様子はなく、なぜオーエンがそれを尋ねたのかを理解し、目を細めた。

 北の魔法使いである双子のスノウとホワイトは、数百年前に殺し合った。他の魔法使いでも、双子ほど永く生きている者はおそらくいないだろう。そんなふたりはどこかの西の魔法使いの言葉に魅入られて、三日三晩殺し合って、最期にホワイトが死んだ。自分の片割れを殺してしまったことを酷く後悔したスノウは、必死にホワイトの砕けた魂をかき集めて繋ぎ止めようとした。その結果、ホワイトはスノウの魔力によって繋ぎ止められた幽霊となり、スノウは魔力の大半を常に使っていた。

 スノウは憂い気に目を伏せた。


「オーエン、その方法はやめた方が良い」


 スノウはこうしてホワイトの魂を繋ぎ止めることに成功したが、魔法使いの誰もがこれを成し遂げることができるのかと言うと、そうではない。どれだけ魔力があったとしても、難しい事だろう。スノウがホワイトを繋ぎ止められたのは、奇跡に近い。たとえぎ止められたとしても、自分の大半の魔力を常に相手へ送り続けなければならない。心で使う魔法は、心が乱れれば精度が落ちる。並大抵の精神力では、決して無理だ。そして何より、それでもと自分が繋ぎ止めたのだとしても、既に死んだ人の幻影を見るのは辛い。

 続いてホワイトも「我も薦められぬのう」と呟いた。既に死んでいる存在であるというのに、こうして今も生きているかのように動いている。しかし、死んでしまった事実は変えられず、時間は死んだ時から止まったままだ。そして何より、自分が一体何者であるのか、という問いかけに疑心暗鬼になる。繋ぎ止められたこの魂は本当に自分自身なのか。自分を繋ぎ止めた相手が妄想した幻想なのではないか。そんな思考に囚われる。

 オーエンは眉間にしわを寄せた。
 
 すべてのものに与えられた寿命に抗うことをやめ、その終わりを受け入れろと暗に言われているような気がした。だが、オーエンが知りたいのはそんな説教じみた言葉でも精神性でもない。

 話にならない、とオーエンは双子から背を向けた。これ以上双子から得られるものはない。そう判断したオーエンが早々に立ち去ろうとすると、後ろからオーエン、とスノウに声をかけられた。ピタリと足を止めたが、振り返ることはない。スノウは静かに語りかける。


「繋ぎ止める方法ばかりに没頭して、今の時間を疎かにしてはならぬぞ、オーエン。あとで後悔するのは、懲り懲りじゃからのう」


 オーエンは視線だけを一瞬背後に向けたあと、溶けるように姿を消した。