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その約束だけが命綱なのだ


 ある日、オーエンは長寿である有名な北の魔法使いのスノウとホワイトのもとを訪ねた。双子の魔法使いは、北の魔法使いにしてはそれなりに人間に温厚であるため、加護を求めた人間がふたりのもとへ次々とやってくる。そうしてやってきた人間を受け入れて加護を与えていった結果、双子の住居の周りを中心に集落ができ、のちに街ができる。しかし人間が増えすぎたり場所が気に入らなくなると、双子はあっさりと集落を捨てる。だから人間は双子を敬愛し自分たちを捨てられないように、縋りつく。それを何度も繰り返していた。

 オーエンが双子の前に姿を現すと、双子は驚いたように目を丸くさせて、珍しいものを見たと見た目通り子供のように騒ぎ立てた。双子は幼い子供の姿をしているが、実際は数千年生きている魔法使いだ。つまり、クララと同じだ。双子もクララも、魔力が成熟したのがその姿の年齢のときで、肉体年齢がそこで止まってしまっているのだ。騒がしい双子にうるさい、と切り捨てれば双子はムッと不満そうに唇を尖らせる。オーエンは面倒くさそうにしながら、さっさと本題へと入る。


「魔力が減少したら、どうすればいいの」


 オーエンから発せられた質問を聞き、至極不思議そうに首を傾げた。魔力がもとに戻らないとか、と形だけ問う双子だが、当然オーエンの魔力になんの変化も無いことなど分かり切っている。魔法使いの魔力を回復するには、その魔法使い特有のマナエリアへ行けば回復が早い。また魔法使いたちはいつでも魔力を引き出せるように、マナエリアを繋ぐアミュレットを持っている。アミュレットはマナエリアと同じ効果を与えるため、直接マナエリアへ行かずとも魔力を補充できるのだ。しかし、オーエンが聞きたいのはそう言う事ではないらしい。それに加え、オーエンは他の魔法使いとは違って人の悪意や欲望から力を得る。だからオーエンのマナエリアは人の多い市場になるのだ。

 双子はなぜ、と疑問を投げかけるが、オーエンは答えようとしない。双子は勝手にあれこれ思案して、オーエンがなぜそんなことを聞いてきたのか頭をひねる。オーエンはさっさと教えろと苛立ったが、そこでスノウがあることを思い出し、声を上げた。


「そういば、そなたは歳の近い魔女と永らく一緒に暮らしておったな」
「ああ、あの北の魔女か。昔に噂は聞いておったが、それ以降なにも無かったからのう」


 北の魔法使いは強い者が多く、人間にも魔法使いにも恐れられることが多々あり、それゆえ噂があっという間に広がる。少しでも目立てば噂の種になる。そうして自分より強い相手や邪魔になる相手を見つけては、殺し合いを始める。孤高の多い北の魔法使いにとって、他の魔法使いは自分の天敵であるのだ。北の魔女のクララもそうだ。オーエンは知らないが、出会う前はそれなりのことをしていたらしい。けれどそれ以降鳴りを潜めたおかげで、狙われることもなくなったのだろう。だからこうして双子の記憶の中にも朧げにしかない。


「もしや、その魔女のことじゃな。オーエン」
「・・・・・・関係ないだろ」


 ホワイトに言い当てられ、オーエンは無表情のまま言い捨てた。この場に人間か他の国の魔法使いがいれば、オーエンから放たれる殺気に息を止め固唾をのんだだろう。双子はなにも感じていないかのようにそうかそうか、と納得して頷く。


「オーエンよ。そなたが我らに聞きに来るということは、ただ事ではないのじゃろう」


 スノウの言葉に、オーエンは答えることも反応を示すことも無かった。じっと見つめ、質問の答えをうかがう。しかし、事情を察したスノウとホワイトは目を合わせ、同時に残念そうに首を横に振るのみだった。その答えは容易に想像できたし、予想出来ていた。けれど欲しかった答えではない。不服そうにオーエンは眉根を寄せた。


「オーエンよ、あらゆる生き物には等しく定命がある。我ら魔法使いも同じじゃ。それと同じように、魔力も有限である」


 残念そうに、仕方のないことだと諦めたようにホワイトが語り掛ける。残念なことじゃが、と肩を落として目を伏せるホワイトと同じように、スノウも表情を沈める。

 そんなことが聞きたかったわけじゃない。現実を押し付けられたかったわけじゃない。諦めの言葉など、最初から求めていない。オーエンは方法が欲しかったのだ。どんな手段でも良い。どんな代償があっても良い。ぎ止めておける手立てが、欲しかっただけなのだ。

 そんなオーエンに現実を叩きつけるように、双子は予言にもならない、決まった運命を突きつけた。


「その者は遠からず、石になって死ぬであろう」


 その事実から逃げるように、オーエンは溶けるように姿を消した。