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Act.45




やがて、ラジェンドラとガーデーヴィは戦いを繰り広げた。

ガーデーヴィは戦象部隊を引き連れ、ラジェンドラを追い詰めたが、それはパルス軍が作った兵器によって止められた。
ダリューンがガーデーヴィを追い詰めたが、ジャスワントにより逃げられ、それを射ようとするファランギースをアルスラーンが止めた。

ガーデーヴィが引いたことにより、戦はラジェンドラの勝利と見えた。


そんな束の間、シンドゥラの国王、カリカーラ王が目を覚ます。
兄弟の状況を知った彼は、神前決闘で王位継承を決めると発表した。


「そこでダリューン卿、俺の代理として決闘に出てはくれないか」


ラジェンドラは頭を下げ、是非とダリューンに頼み込んだ。
アルスラーンやダリューンは少し驚き、瞬きをした。しかしダリューンはすぐに断りを入れた。


「迷惑ですな」

「まさか、ダリューン卿……怖気づいているわけではあるまいな」

「どうぞご解釈はお好きなよう。私はアルスラーン殿下とスーリ王女殿下の臣下。殿下方のご命令がない限り、どんな御用もお引き受けできませぬ」


臣下として、当然のことをダリューンが言った。もともと、ダリューンはラジェンドラへの評価が低かった。そのこともあろう。
ラジェンドラはアルスラーンとスーリに向き直り、深く頭を下げた。


「頼む」


困った二人は顔を見合わせ、最終的に首を縦に振ることとなった。




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__



パルス歴三二一年、二月――。

神前決闘のため、アルスラーンらはシンドゥラの国都へ訪れた。
神前決闘が行われる場所へ行くと、そこにはガーデーヴィやマヘーンドラ、ラジェンドラ、そして国王カリカーラがいた。


「アルスラーン殿にスーリ殿、よくぞ来てくれた」


ラジェンドラが笑顔で向かい入れ、中央に座るカリカーラを紹介する。
スーリとアルスラーンは会釈をし、設けられた椅子に腰を静めた。

椅子に座ったのはナルサス、アルスラーン、スーリの三人。エラムやアルフリードはナルサスの後ろへ。ファランギースやギーヴは、それぞれアルスラーンとスーリの後ろに控えた。


火に囲まれた決闘場所へ現れたのは、黒衣を纏ったダリューン。
次に現れたのは、巨大な大男。名を、バハードゥルと言うらしい。

それを見た瞬間、アルスラーンやスーリ、ラジェンドラは驚愕した。


「ラジェンドラ殿、あのバハードゥルという男……」

「なに、ダリューン卿には到底およばんよ」

「……」


ラジェンドラはそう言うが、アルスラーンやスーリの不安は拭えない。


「ご心配ありません。ダリューン様が負けるはずがありません。あの方は、地上で最も強いのですから」


エラムが二人を励まそうとする。


「これより、次期国王を決める神前決闘を行う。この決闘は不可侵なれば、両者とも、異を唱えることなくべからず」


マヘーンドラが言葉を放つ。
やがて彼の掛け声により、決闘は開始された。

ダリューンは凄まじい力で圧倒するバハードゥルを避けながら、胸に深い傷を負わせた。
それは深いはずだった。しかし彼は倒れず、あろうことか不気味な笑みを浮かべた。


「っ!」


アルスラーンは身を乗り出し、スーリは身体を固くした。

決闘を繰り広がるダリューンはなんとか彼の攻撃をかわしているが、剣は折れ、やがてかぶっていた兜を飛ばされ、その衝撃で少しよろけた。

アルスラーンは息を浅くした。スーリはじっとその戦いを見つめるが、膝に置いたその両手は強く握られていた。


「あれは人間ではないな」


ギーヴが零した言葉に、ファランギースが続ける。


「人の皮をかぶった獣はどこにでもいるが、あれは正しく猛獣じゃ。ダリューン卿は人間相手では負けるはずもないが……」


そこで言葉を止めたのは、アルスラーンとスーリを想っての事だろう。
ファランギースは、息を浅くするアルスラーンの肩をそっと掴んだ。


「……っ」


あの男の力は、尋常ではない……。ギーヴやファランギースが言うよう、猛獣だ。

スーリは握っていた手をさらに強めた。自分の手に食い込む詰めが痛いが、そんなことも頭に入らぬほど、動揺させた。
ふとギーヴがそんなスーリに目を向け、手を伸ばした。

ギーヴの手は一度スーリの手首を撫で、そのままなぞるように両手までいき、包むようにそれを握った。
スーリは一瞬驚いたが、振り向くことはなく。握った手の力を弱めた。


ダリューンは折れた剣をバハードゥルに突き刺すが、痛みを感じないようで。
更に青ざめたアルスラーンは思わず立ち上がった。


「ダリューンッ!!」

「あの男、バケモノか」


ファランギースが素直な感想を述べると、ラジェンドラがこちらに歩み寄り、汗をにじませながら話した。


「聞いたことがある。あの男は鮫と同じだ。痛みを感じることがない」

「そんなことが、ありゆるというの……」


信じられないとスーリが言う。
すると、アルスラーンはラジェンドラの服を掴みかかり、初めて聞くような低い声で攻めよった。


「貴方は……それを知っていて、ダリューンを決闘の代理人に選んだのか!」

「お、おちつけ……アルスラーン殿」


アルスラーンの様子に動揺したラジェンドラ。
アルスラーンは続ける。


「もしあの怪物にダリューンが殺されでもしたら、パルスの神々に誓い、あの怪物と貴方の首を並べて城門にかけてやる!!」

「アルスラーン」

「おちつきなされ、パルスのお客人」


生まれて初めて人を脅迫したアルスラーンを、国王カリカーラが止めた。
アルスラーンやスーリは彼を見つめ、その言葉に耳を傾けた。


「ガーデーヴィが神前決闘の代理人を選んだのは、ラジェンドラの後の事。なんでも、お客人の部下は無双の武人だとか。それほど敵に畏れられる部下のことを、信じておやりなされ」

「……」


カリカーラの言葉で、アルスラーンは瞳を伏せラジェンドラから手を離した。ラジェンドラは労わるように彼の肩に手を置く。
スーリは軽くカリカーラに会釈し、彼もまたそれを返した。

そして再び、スーリとアルスラーンはダリューンたちに目を向ける。

後ろではガーデーヴィとカリカーラが言葉を交わしているが、気にすることもなくアルスラーンやスーリはじっとそこを眺めた。
すると、立ち上がったナルサスが二人にそっと耳打ちをした。


「そろそろ終わります」

「え?」


ナルサスを見ると、彼は薄く笑っていた。
困惑しながら目線を戻すと、ダリューンは燃えたマントでバハードゥルの顔を覆い、喉元に隠していた短剣を突き立てた。


「短剣……」

「武器はないと見せかけ、相手の油断を待っていたのだよ」


あやつも、なかなかの策士だなとナルサスは呟く。


「そこまで」


カリカーラの声が響き渡った。
決闘上には、倒れるバハードゥルと、立っているダリューン。


「ダリューンの勝ち。すなわち、ラジェンドラの勝ちじゃ。シンドゥラの国王は、ラジェンドラに定まった」


カリカーラが宣言すると、周りのシンドゥラ人が声をあげた。
これにて、神前決闘は終了。振り返ったダリューンがアルスラーンとスーリに笑みを向け、安堵した二人は胸を撫で下ろした。


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