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Act.37




ラジェンドラ王子と同盟を組んだアルスラーン、スーリはガーデーヴィ打倒のため、国境を越えた遠征へと出た。

パルス歴三二一年。
新年は、シンドゥラ国西北方の荒野で明けた。


年末にカーヴェリー河を越え、渡河を阻止しようと襲ってきたガーデーヴィの軍も難なく撃破した直後のことだ。

異国の地にいるものも、パルス式に新年の儀が執り行われた。

あらたな年の最初の太陽がのぼる前に、国王が泉へおもむき、兜に水をたたえて陣営に戻る。そして国王の血を象徴する葡萄酒を泉の水にそそぎ、「生命の水」と呼ばれる聖なる液体をつくり、天と大地へ投げ打ち、残りを国王みずからが飲み干して、天上の神々と収穫への祈りや忠誠心を表すのだ。

国王代理はアルスラーンが務めた。

無事に儀式が終わり、パルス軍から歓呼の声があがると、王子に旧年から付き従う者たちはほっと胸を撫で下ろした。


新年の儀が終わると、それを祝う宴が開かれた。

ギーヴやファランギースは酒を飲み、ダリューンやナルサス、そしてエラムとアルフリードは食事をとった。
そんな中、アルスラーンとスーリは宴の外れにいた。空を飛んできたアズライールが戻ると、ラジェンドラとその後映画こちらへ向かってきた。


「やぁ! アルスラーン殿にスーリ殿、新年のあいさつに来た!」

「わざわざありがとうございます。ラジェンドラ殿」


微笑みでスーリが返すと、ラジェンドラは短く返事をし、二人がいるところまでゆっくりと登ってきた。


「ところで、我が友にして心の兄弟。そして麗しく美しい人よ」


ラジェンドラは二人の目の前まで来ると、二人の肩に自らの手をのせ。


「相談があるのだが?」





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「我らの軍とラジェンドラの軍を二つに分け、両方向から攻め入ると」

「うん。ラジェンドラ殿の提案だ」


ラジェンドラの相談とは、まさにこれである。

アルスラーンとスーリは相談を受けると、すぐにダリューンらを呼び彼らに相談を持ち掛けた。


「どう思う? ダリューン」

「お断りなさいませ。あの男、信用すべきではありません」


スーリの問いかけに、ダリューンはそういう。


「俺も、そう思いますね。あの王子様、きっと俺たちをおとりに使うつもりですよ」


琵琶の弦をはね、ギーヴが言う。


「ファランギース殿も同じ考えでは?」

「不愉快なことにな」

「やはり、そう思うか……」


ダリューン、ギーヴ、ファランギースがそう言い、スーリの隣にいるアルスラーンはそう言葉を零した。
ふと、隣にいるナルサスに目を向ける。


「ナルサスの考えを聞きたい」

「まず、殿下と姫にお祝いを申し上げます」


脈絡のない言葉に王子一行は目を丸くしたが、ナルサスは「どうやら、殿下の部下に阿呆はひとりもおりませぬようですので」と目を細めてみせた。


「彼らの意見はまことに正鵠を射ております。ラジェンドラ王子の真意は、パルス軍をおとりに使うことで間違いないでしょう。ですがその相談、ご承諾なさいませ」

「な、何故だ」


ナルサスの言葉にアルスラーンは驚く。
スーリは黙ってナルサスを見つめ、彼が紡ぐ言葉を待った。


「この際、相手から提案してきたがさいわい。ラジェンドラ王子は、鉄でできた良心をお持ちの人。このような人と同行していては、いつ背中から斬り付けられるか、知れたものではありません。少し距離をおいて行動したほうがよろしいかと存じます」


さらにナルサスは続け、ラジェンドラの提案に乗るかわりに、充分な食糧と、それを運搬する牛馬、くわしい地図、信用のおける案内人を要求するようにとアルスラーンに進言する。


「そうか……。姉上はどう思いますか?」


ナルサスの話を聞き終えると、黙っていたスーリに話を持ち掛ける。
スーリもナルサスと同じよう、冷静な判断を下す者。二人の意見が合致すれば、誰もが安心しよう。


「確かに、ナルサスの言う通り彼とは距離を置いたほうがいいでしょう」


スーリの冷静に状況を把握する声が響く。


「充分な食糧、それを運搬する牛馬、くわしい地図、信用のおける案内人を条件として、ラジェンドラに話してみましょう」


スーリの意見も合致した。
その後、アルスラーンとスーリはラジェンドラの元へ向かい、この要求を条件に彼の相談を請け負うこととなった。


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