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Act.19




一方、ダリューンとナルサスは夜のエクバターナで交戦していた。


「何事か…探っている者がいると聞いてな」


月を背負い、ヒルメスはダリューンを見下ろした。
直後、互いの刃がぶつかり合う。力は拮抗していることに、ヒルメスは微かに高揚した。


「痴れ者。名を聞いておこうか…!」

「…ダリューン」


ダリューン。
その名に驚き、そして更に高揚した。


「こいつは傑作だ。あのヴァフリーズの甥か…!」


ヒルメスは高々に声をあげ笑い叫んだ。


「ダリューン、教えてやろう。貴様の伯父ヴァフリーズを殺ったのは、この俺だ!」

「っ!」

「アンドラゴラスの飼い犬めが、それに相応しい報いを受けたわ…! 貴様の死に様も伯父に倣うか!!」


ダリューンの殺気が膨れ上がり、そのまま一息に斬り込んだ。
剣先がヒルメスの仮面を切り裂く。

銀の仮面が地面へと落ちると、ヒルメスは露わになった顔でダリューンを睨みあげた。


「おのれぇ…!! ダリューン!!」

「火傷…?!」



ヒルメスの攻撃が一段速さを増す。防戦一方にならぬよう、ダリューンも攻撃に転じようとする。
だが、一瞬の気遅れが仇となった。

ヒルメスがダリューンに向かって剣を振り被り、やられる、とダリューンも直感した。
だが、突然脇から攻撃され、ヒルメスは大きく飛び退いた。


「おいおい、名前も聞いてくれないのか?こちらから名乗るのは気恥ずかしいではないか」

「誰だ道化者…!」

「では、改めて。我が名はナルサス!次のパルス王の世に宮廷画家を勤める身だ。画聖マニの再来と人は呼ぶ」

「誰が呼ぶか!」


ダリューンはすぐにナルサスの言葉に突っ込んだ。


「ふん、飼い犬とヘボ画家か。お似合いだな」

「ヘボ画家…? それは、このナルサスのことか!」


ヘボ画家発言にナルサスが間合いを詰めてくる。
幾度も剣が交え、お互いの剣を抑えているとヒルメスは口端を上げ問いかけてくる。


「それで…? スーリはどこだ、ヘボ画家」

「スーリ、だと」


ナルサスは目を細め、眉を寄せた。

スーリはパルス第一王女だ。狙われる身であるのは理解できる。
しかし、この目の前にいる男が違う意味でスーリを狙っているように、ナルサスは感じた。


「ああ、そうだ。アイツは此処から逃げ出した。なら、向かうのはあのアンドラゴラスの呪われた子のもと…!」


ヒルメスはナルサスの剣をどけ、間合いを詰めてくる。
ナルサスはすぐに距離を置き、ヒルメスと離れた。


「そして、アレは貴様らといる。答えろ、スーリは何処だ!」


間合いをさらに詰めてくるヒルメスに、ダリューンが動き、刃を交えた。

ダリューンもナルサスと同じように感じていた。
スーリに対する執着を。


「何故スーリ様を狙うッ!!」

「アイツは俺のモノだ、昔からな! だから奪い返す!!」


ダリューンがヒルメスの剣をはじくと今度はナルサスが間合いを詰め、ヒルメスと刃を交える。


「スーリは昔から俺たちといたぞ! お前のような男は知らんな!!」

「戯言をッ! 貴様らがそう仕向けたのだろう!!」

「戯言を言っているのはどっちだッ!!」


ナルサスをはじくと再びダリューンの剣が迫る。
ヒルメスが一旦距離を取ると、二人を兵たちが取り囲んだ。

ダリューンたちはそれを見るや直ぐに引いた。
ヒルメスは馬で逃げていく二人の背を上から眺めた。


これで、スーリが誰といるのかは分かった。

先ほどの話は推測だ。こんな短時間で合流できたとは考えにくい。
しかし、スーリは合流できた。


ヒルメスは火傷を負った顔を手で覆い、目を細め夜空を見上げた。

目を閉じればそこにスーリがいる。
目を開ければスーリに思いをはせている。


必ず奪い返す。
あの日、俺から奪ったように。

必ず、スーリの縛るものをすべて消し去って_。


「スーリ……」


その声は風によってかき消された。


-19-


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