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Act.16




「カーラーン! 王はどこにおられる!?」


カーラーンは瀕死の状態でありながらも、それにか細い声で答えた。


「アンドラゴラス……王は…生きておる……だが王位はすでに奴のものではない……正統の王が…」

「正統の王…だと……?」


ダリューンが困惑した声をあげ、同じく駆けつけていたナルサスと顔を見合わす。


正統な王…。
私やアルスラーン以外に…。


スーリの頭の中では何かがぼんやりと浮かぶ。しかし思い出させそうにもなく、額に手を当てた。
直後、カーラーン!と呼ぶ声が後ろから聞こえてきた。


「死ぬなカーラーン!! 死んではならん!!」


アルスラーンであった。

カーラーンは、周りを見渡した。ファランギース、エラムといった女、子供。
地下道で出くわしたギーヴに、宮廷嫌いのナルサス。
そして、悲しそうに眼をゆがめるスーリとアルスラーン。


カーラーンはこの寄せ集めに我隊は負けたのか、と自嘲する。


「死ぬなカーラーン!! 生きよ!!」


アルスラーンは尚も叫ぶ。
カーラーンはアルスラーンを睨みあげた。


「おぬしの…命令は、聞けぬ!!」


そう叫ぶと、パルス国の誇りであったはずの裏切り者はゴ血を吐いて事切れた。
暫くの沈黙の後、カーラーンが死んだことを確認したナルサスは立ち上がった。


「アンドラゴラス王は生きておられるようです」


「父上が?!」


「それ以外は残念ながら聞き出せませんでした」


「父上が…生きておられた…」


アルスラーンは姉上!とよかったとでもいうように叫んだ。

スーリは悲しさを残した微笑みを浮かべ、アルスラーンに寄り添う。
その後、ファランギースが殿下方と言い、前へ出て膝をついた。


「我が名はファランギース。フゼスターンのミスラ神の神殿に仕えていた者でございます。先代の女神官長の遺言により参上いたしました」


「先程は危ういところを助けてくれたな、礼を言う」


続いて後ろにいたギーヴもファランギースに続き、膝をついた。


「我が名はギーヴ。王都エクバターナより、殿下と王女殿下にお仕えするために脱出してまいりました」


ファランギースは呆れた視線をギーヴに注いだ。


ギーヴはアルスラーンにタハミーネのことを伝えた。
アルスラーンは聞きたがっていたが、ナルサスが此処ではといって移動を急いだ。

しかし、アルスラーンは待ってくれと言い、ファランギースに向き合う。


「カーラーンとその部下たちの死に弔いの詞を捧げてはくれないか」


その言葉に目を丸くしたのはギーヴである。ファランギースも少し驚いている様子であった。


「エクバターナに家族がおる者もあったろう、それでも裏切りに加担せねばならぬだけの理由があったのだと思う。ミスラ神は契約と信義の神だが軍神でもある。どうか戦士を弔う神の詞を」


「私から頼めないだろうか」


「姫様!」


アルスラーンの隣にいたスーリも一歩前へ出てファランギースに告げた。
スーリはダリューンに微笑む。


「…承知いたしました」


ファランギースはすぐに快諾すると、カーラーンたちの遺体の方へと向き直った。
アルスラーンも同じく向き直った。

数歩下がったスーリはそんな二人を見守るように眺めていると、後ろからギーヴがやってきて肩に手をついた。


「スーリ殿」


「ギーヴ。…また、助けられたわね」


「俺にとっては嬉しい限りだ。それと…」


そういってギーヴは持っていた首飾りをスーリの前でかざした。そのままスーリの手の中にそれを返す。


「極上の礼は後日貰うゆえ、それはお貸しします」


耳元でささやくとそのままギーヴは下がり、歩いて行った。
しばらく首飾りを見つめ、それを付け直す。


遠くからはそんな二人を見るナルサスとダリューンの姿。


「ナルサス、あの男を信用してもいいのか…姫様に近すぎやしないか」

「俺も同感だが、あやつはスーリを城から連れ出した張本人だ」

「スーリ様を!?」


お守りすべく姫を逃がしてくれたのがあの男というのに、ダリューンは酷く驚かされた。


「あぁ。それに、スーリが信用もで来ぬ輩を傍に置くと思うか?」

「それは……そうだが」

「ならば平気だ。あやつがそう判断したのだ、心配することは無かろう」

「…そうだな」


ダリューンは歯切れ悪く言う。


朝日は上り、歌うファランギースを美しく照らしていた_。


-16-


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