6,ありがとうばかり



「ごちそうさまでした。」

箸を置いて手を合わせると、カカシも同じ動きをした。ハンバーグは美味しかったし、すぐにお皿を重ねて片付け始めるカカシは私より家庭的なのかもしれない。

「アイリ、お腹いっぱいになった?」
「うん!美味しかったよ。」
「じゃあさ、これからちょっと俺に付き合ってくれない?」
「へ?」

カカシはそう言うと立ち上がって食器を流しに持って行った。



「服はそのままで、アイリの荷物全部持って。」
「わ、分かった。」

カカシに言われるがまま、バッグに散らかした書類や財布をしまう。床に転がったパンプスをひとつ持って、準備出来たよと、カカシに視線を送る。

「靴、ひとつしかないの?」
「あ、なんか片方はこっちの世界に来なかったみたいで。」
「へえ。不思議。」

カカシは片方だけのパンプスを興味深けに見た。それから少し靴箱の前で悩むとサンダルを取り出した。

「俺の靴だとでかいから、サンダル。これでもでかいけどね。」
「あっ、ありがとう!」

カカシのサンダルを履くと、やっぱりぶかぶかで歩くたびにペタペタと音がした。カカシの家の玄関から外に出ると、冷たい風が通った。この夜の空気も私の世界のと近いな。そんなことを思っている間に少し先を行ってしまったカカシの背中を慌てて追いかける。

「どこに行くの?」
「んー、やっぱり言葉だけじゃ伝わらなくてね。」
「どういうこと?」
「ま、行ってのお楽しみってことで」

曖昧な返答をしたカカシに不満だったが、ここはやはりついて行くしかない。
ペタペタと音を立ててカカシの隣を歩いているのだが、街灯も少なく、人通りも無い。頼りなのは月明かりと隣のカカシだけ。

「なんか、薄暗くて怖いね。」
「あー、ごめんね。その格好のアイリを真昼間に外連れ回せないからさぁ。」

予想外だった。そういえば、私が着ているスーツもバッグもこの世界では存在しないようだし、真昼間に私が歩けばきっと目立つ。何も考えずにカカシの部屋で泣き寝入りをしていた私は考えもしていなかった。

「・・・カカシありがとう」
「え、どうしたの?」
「ううん、なんか嬉しくて。」
「そう?どういたしまして。」

なんだかまた泣きそうになった。
この世界に来た最初の場所が、カカシの部屋で良かったのかもしれない。






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