5,やさしさのごはん



「アイリの街では何を食べるの?」

そう言いながらカカシは作っていたハンバーグを机に置いた。椅子に座るとハンバーグの良い匂いが私の鼻までよく届いてきた。美味しそう。

「同じ。ハンバーグ、食べるよ。」

絞り出してへらりと笑うと、まだ残っていた涙が右目から少し出た。
すると、す、とカカシの左手がやってきて、その親指で涙が拭かれた。

「そりゃ、不安だよなぁ。」

ぼそり、と言うカカシの声は、朝の恐ろしい声が嘘のように優しかった。私が驚いて固まると、カカシは平然と私の目の前の席に着いた。(む、無意識かよ・・・!)私は、赤くなる顔を両手で覆った。

カカシも出掛けている間も私の所在はどこかと考えてくれたのだろう。食事をしながらふたりで話した。私の世界の話やここに来るまでは出勤しようとしていたこと。会社では波風立てずに静かに仕事をしていたこと。カカシは、「へえ」とか「うん」とか相槌をうってくれて、時折、「それってどういうこと?」と当たり前のことをそう聞いてくるので、この世界には無いのかと驚く。やっぱり話しても私の世界とカカシの世界の違いに気付くだけで、帰り方は一向にわからなかった。

「カカシはどんな仕事しているの?」

一通り自分の事を話し尽くしたところで問う。

「忍者だよ。」
「へ、に、忍者?!」

今日1日、ずっと驚いていたがこの言葉が一番驚いたかもしれない。忍者なんて私が住んでいる世界にはいないし、いたみたいだけど滅びたし、少なくとも堂々と "私は忍者です" だなんて言う奴は頭がおかしい認定だ。

目をぱちくりさせる私に対し、平然とハンバーグを食べるカカシ。

「忍者、アイリの世界にはいないみたいだねぇ。」
「あっ!だから顔隠したり!その目の傷も!ヤクザかと思って怖かったんだよね!」

今までの私なら、"忍者" なんて言われても、すぐには納得出来なかったと思う。"架空の存在" そう思っていたからだ。なのに、この数時間で私の頭の中は随分真っ白になったようで、スッとその存在を認められたのだ。 "カカシは忍者" 至極当たり前に聞こえる。私が、「なんだあ、そっかあ。」と納得した声をあげると、カカシがフフッっと笑った。

「ま、顔隠していないやつもいるけどね。傷も、ね。」
「そうやって片目瞑るのは傷で開かないの?」

出会った時から瞑られていて、外出する時には隠していた左目についてずっと不思議に思っていたのだ。

「んー、こっち開けるとアイリ死んじゃうから」
「またまた〜」

冗談かと茶化したら、カカシが不敵に笑うので、背中がぞわりとした。カカシにしたら私なんか目で殺せるようなものなのではないだろうか。今朝、突きつけられたあの黒い刃物を思い出す。ひんやりと硬い感触、怖くて、喋るのがやっとだった。そんなことがあったのに、平然と何事もなかったかのように目の前でハンバーグなんて食べている。

もしかしたら、明日には。






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