「はあ」
静かになった部屋を見回すと、家具の配置や物の種類が違うものの、キッチンの場所、洗面所やトイレ、玄関の位置、さっきまで見ていた窓まで、間取り全部が私の家とそっくりだった。
「・・・私の、家?」
そう、勘違いするほどに。
見回すだけでは納得がいかず、バタバタと隅々まで見る。備え付けである風呂やトイレ、キッチンは私の家にある物と同じ物だ。家具の配置はやっぱり違かったが、ただ一つ、窓の下のベッドだけが同じ位置だった。
「信じられない・・・」
私の記憶にあるのは、朝いつものように起きて準備をして、パンプスを履き損なった拍子に玄関を頭から突っ込むように転んだ。と思ったらいつの間にかカカシの家のベッドだ。怪我はない。持っていたバッグも一緒。
「あ。」
パンプスがベッドの上に転がっていた。片方しかない。やはり、パンプスは履き損なっていたのだ。きっともう片方のパンプスは私の家にあるはずだ。私はどこの世界に来てしまったのだろう。これもまさか、奇跡だとか運命だとか言うのだろうか。馬鹿らしい。
「そうだ、ケータイ!」
ケータイで誰かに連絡を取ろうと開くが "圏外" と嫌味ったらしく表示された。この世界にはケータイが繋がる電波などないらしい。もしかして、上司が私の持っている書類を待っているかもしれない。会社、無断欠勤なんて初めてだな。怒っているのだろうか。心配なんて、してくれているのだろうか。そんなこと思ってくれないほど、私は運命に身を任せすぎたかもしれない。
ぎし、とベッドに座るとスプリングの音がした。目の前が滲んできた。慌ただしくてなんとも思っていなかったが、考えると不安になってきた。ここはどこなの?どうして来てしまったの?ここがカカシの家なら、私の家はどこに消えたの?どうしたら、戻れるの?はらりと涙が流れる頃、私はすでに眠ってしまっていた。
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良い匂いにつられ、目を開けるとキッチンに人の姿。起き上がって涙に邪魔をされた目を擦ると、ふわふわした銀髪が振り返る。
「あ、起きた。おはよ。」
「・・・うん。おはよう。」
少し期待をしていた。目を覚ましたら元の私の家に戻っているのではないかって。
全部夢で、奇跡を信じない私に、奇跡を見せてくれたのだと。