2,わたしはだれなの



「あっ!怪しくない証明します!!」


「ん?」
「と、とりあえず、離してくださいお願いします」

彼は怪訝な顔をしつつ解放してくれたが、向けられた刃物にやはり安心できない。咄嗟に見た刃物は見たことの無い形をしていたが、絶対に刺さったら死ぬのだろうということだけは分かった。私が飛び上がって起きると彼は私の背後に立った。怖い。焦った私はベッドに無造作に置かれた自分のバッグを見つけると飛びつくように駆け寄った。バッグをひっくり返し、財布を見つけると運転免許証、保険証、社員証など、あらゆる身分証明書(きっとポイントカードもあったと思う)を出すと彼に突き出す。

「ど、どうでしょう!」
「ん?なに?これ?」

彼は私のいろいろな身分証明書を受け取り、全部見たようだったが、本当に分からないのだろう。首を傾げて困った顔をこちらに向けた。

「でもでもでもでもでも!!見て!バッグの中には危ない物入ってないし!ポッケも携帯くらいしか入ってないし!どっ、どちらかと言うとお兄さんのが危ないっていうか!!」

無残に広げられたバッグの中身を指差し、ポケットの中の携帯を出した。身振り手振りで大げさに "私は安全ですよアピール" を全力でした。ふぅ、と彼は溜息をつくと私に向けた刃物を降ろした。

「んー、なんか怪しい一方だけど、危なくないのは分かった。」
「ありがとうございます!」
「それになんだか不憫だしねぇ。」

急に柔らかい口調になった彼に、床に額がつく勢いで頭を下げたが、続けられた言葉に私は「ん?」と頭を上げた。彼はそんな様子の私を見ると、もう一度息をついて、その不思議な刃物をしまってくれた。

バッグの中身は会社で使う資料や書類ばかりで、会社にとってはすごく大事なものばかりなのに、今の私にはとてつもなくどうでもいい物に思えた。彼はそのどうでもいい物もくまなく見て、いちいち怪訝そうに眉をしかめた。

「これはなんなの?」
「あー、会社の書類です。なんかわけわからないですよね!はは!」

私の空笑いも虚しくスルーされ、彼は書類を見つつ「ふうん。」と興味がなさそうに言った。

「ずっと思ってたけど、その格好は何?」
「え?」

自分の格好を改めて見るが、どこからどう見ても普通のスーツ姿だ。

「・・・おかしいですか?」
「うん。初めて見た。」

スーツって一番ポピュラーな格好ではないのだろうか。まじまじと上から下まで私の姿を目に写す彼を、眉をしかめて見ると、彼は静かに口を開いた。

「本当に、どこから来たの?如月アイリちゃん?」

私は本当にどこから来たのだろう。






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