1,運命ってなあに?



小さい頃、お姫様に憧れた。いつの日か王子様が運命の愛のキスをして、私をお姫様として自分の城へと連れて行ってくれるのだと信じていた。

だが、そんなことは遠い昔の記憶で、王子様なんていないし、もし私をお姫様として迎え入れるような国なんて、すぐにでも滅びてしまうに違いない。奇跡だとか運命だとか、もう全く信じていないし、全てそんなもので決まっているのならば、この手でぐちゃぐちゃに捻じ曲げてやりたい。でも、きっとそうやって私が捻じ曲げること自体運命だって言われてしまうのだろう。とかなんとかかんとか文句をつけてみたけど、結局私は何もせずに大人しく生きて、その運命とやらに身を任すと決めたのだ。

そう。身を任せていただけなのだ。

今日も、運命の愛のキスをされずに目覚め、ドレスではなくスーツを着て、シェフが作ったパンケーキではなく自分でよそったご飯に納豆をかけて食べた。なんの狂いもない、いつもの朝だった。なのに。なのにだ。パンプスを履きながらドアノブを回すと、上手く履けずによろめいた。「あっ」と思った時にはもう遅い。私は頭から外に突っ込んだ。右手には鞄。左手にはドアノブ。顔面に迫るのはコンクリートの地面。反射的に目を瞑る。ああ、死んだ。こんな最後嫌だ。最後くらいロマンチックに死にたかった。毒リンゴでも食べて死ねたら本望だったのに。そしたらいつの日か王子様が助けに来てくれるでしょう?さようなら王子様。出会えず残念です。



−−−−−−ばふっ



コンクリートの硬い感触を覚悟していた私の頭は、柔らかい感触に混乱した。ぎゅっと目を瞑っていた目を恐る恐る開くと、これは、ベッドの上?私の家ではないシーツの色と感触に戸惑い、起き上がろうと手をつくと、ぐるんと身体が一回転した。いや、させられた。

「どこから出てきた。」

私は驚いて大きく目を開いた。
目の前には銀髪の男。組み敷かれていて、右側には彼の左手。馬乗りというやつをされている。なんて大胆な。
一回転したということは、私は先程まで彼に同じことをしてしまっていたらしい。
どうして。なぜ。この人は、誰?

「答えろ。」

もう一度彼が問うと、首元の違和感に気付いた。ひんやりとした冷たい感触。は、刃物・・・!

「ひっ」

そう気付いた瞬間、上擦った声が出た。え、何、私殺されるの・・・!?

「まっ、まって、まってまって!落ち着いて・・・!」
「俺は、落ち着いている。お前の答え次第で殺す。」

落ち着いてないよ!何この物騒な人!!!!

「もう一度問う。どこから出てきた。」
「どっ、ドア?」
「ふざけるな。」

カチャ、と首元の刃物が動く。私は全くもってふざけてないし、ドアから出てきたのは事実だ。混乱している頭をなんとかフル回転させる。この人の誤解を解かなければ、本当に殺されてしまう。






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