03*今日のオススメはハンバーグ定食です。 >>

今日もいつも通りお昼は忙しくて瞬く間にお昼が過ぎた。いつも通りなのは、おやっさんの美味しいごはんと時間だけで。

「ありがとうございました〜」

ちん、と受け取ったお金をレジにしまって店内を見渡す。静まり返った店内もやっぱりいつも通りなのだけれど、私の頭の中はこれからやってくるランチタイムギリギリ男に埋め尽くされている。はぁ、と溜息をつくと、「アイリちゃん!」と厨房にいるおやっさんに呼ばれた。

「どうかしましたか?」

ひょこひょこと厨房に行くと、眉を下げたおやっさん。

「そのセリフは俺のだよ〜。今日のアイリちゃんお客さんに声負けてたよ〜?」
「えっ」
「なんか悩みとかあるなら聞くよ?それとも体調悪い?」
「いえっ!げ、元気です!」

ぶんぶんと頭を振って答えると、「夜もあるんだからね」とおやっさんは優しい口調で注意してくれた。ああ、駄目だ。こんなことでおやっさんやお客さんに心配をかけていたら、、、!こっちは接客業のプロ『看板娘』なのだからっ!

「どーも。まだランチ間に合う?」

扉が開く音と共にやってきた呑気な声に、プロとして燃やした闘志が嘘のように吹き消されてしまった。いつもなら待ってましたと言わんばかりに声を掛けるのに、今日の私は声を聞いた瞬間にびくっと上がった肩を、どう誰にも気付かれずに下げるかを考えるだけで精一杯だった。私のプロ根性はそんなものか、、、。

「ひぃらっしゃいませぇっ!」
「ぶっ!声どしたの?」

平常心で、と思ったらこれだ。いつも言っている言葉でさえも上ずった。私の気も知らないでカカシさんは容赦無く吹き出した。知るはずもないのだけれど。

「な、なんでもないですっなんでもっ!きょ、今日のオススメはっ、はん、ハンバーグ定食です!」
「じゃあ、ハンバーグ定食で。」

私の噛み倒したいつものセリフに首を傾げつつも、カカシさんもいつものセリフを言った。

「おやっさんー!ハンバーグ定食ひとつー!」
「あいよーっ!」

カカシさんは、いつもごはんが来るまで本を読む。毎回毎回同じ本を読んでいるので、どんなにおもしろい本かと「私も読みたい」と言ったことがあるが、その時は信じられないほど拒否された。少し傷ついたが、もしかしたら大切な忍のことが書いてあるから一般人の私には教えられないのだと思い、それ以上は追求しなかった。だが、今回は違う。一般人であるお肉屋さんのおばちゃんが知っていたのだ。ただただ私の無知な頭がいけないのだ。カカシさんの顔をチラ、と見るがやはり平然と本を読んでいる。勝手に私が穴に入りたくなっているだけだ、と思いつつも、やはり気まずいものは気まずい。

「アイリちゃん!ハンバーグ定食おまちっ!」
「はいっ!」
「今アイリちゃんのまかないも作るから待ってね〜!」
「へっ!?い、いいです!いいです!!あっ、だ、ダイエット中で、す!」

カカシさんと一緒にごはんを食べたくない一心でついた咄嗟の嘘。初めて知ったと、びっくりした顔のおやっさんは「そうか、辛いな!」と元気に答えてくれた。そりゃそうだ。私も私がダイエットしてるなんて初めて知った。

「ハンバーグ定食です!どうぞ!」
「どーも。」

カカシさんの目の前にハンバーグ定食をとんっと置くと、座ったカカシさんに見上げらる。

「ダイエットなんて、しなくて良いのに。」
「う、あ、す、すみませ、ん」
「いや、俺に謝ることじゃないけどね。」

思っていたより大声でダイエット宣言をしてしまったようで、カカシさんに聞かれた恥ずかしさにまた気まずさが増す。耐えられなくなった私は、厨房に逃げ込んだ。カカシさんは黙々とハンバーグを食べている。

こんなことじゃ駄目だ、と頭の中ではわかっているのに、気まずさに私の身体が勝手に動く。

「アイリちゃん!ほら、お会計!」

おやっさんの言葉にハッとする。レジ前にカカシさんがもうすでに立っいる。

「す、すみません!あーっと、ハンバーグ定食は、、、」

値段を告げると黙って財布から小銭を出し、カカシさんはふと、私の顔を見た。

「ダイエット、無理せずに」
「は、はい!」

カカシさんは寂しそうにふわりと笑うと、静かに出て行った。あんな顔で笑われたのは初めてで、今日の行動の失礼さに罪悪感でいっぱいになった。私が勝手に気まずくなっているだけなのに。


それから数日、カカシさんはお店に来なくなった。











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