∴ 01*今日のオススメはBランチです。 >> がらら、と扉を開ける音がして、私はいつもの挨拶をする。 「いらっしゃいませーーっ!!」 私が働いている定食屋さんは何故だか忍のお客さんが多くて、忍の方は普段何をしているのかはよく知らないけれど、とても優しくしてくれるので好きだ。 「アイリちゃーん!俺、日替わり定食ね!」 「あ、俺も俺も!」 「はーい!日替わりふたつー!」 あいよーっ!とおやっさんの威勢の良い返事が厨房から飛んできた。お昼時は特に店内は活気に満ち溢れている。それに負けないように私も元気に声を出す。時折、お客さんにちょっかいを出されたり、お店が空いている時は会話に混ぜてもらったりする。こんなお昼時は、たくさんの人の会話が混ざって賑やかで、いろんな話が聞けて楽しい。その分こちらも大変なのだが。 「俺、こないだ一緒になってよー。やっぱさすがだわ。」 「へえ、いいな。俺1回もマンセル組んだことないわ。」 「写輪眼も改めて見るとやっぱすげえな。コピー忍者だけある。」 「うちはじゃねえもんなあの人。木ノ葉一の業師、だもんな。俺もどっかで異名ねえかなあ。」 「お前がどこで語り継がれるんだよ!」 「うるせーっ!」 がはははと笑い声。忍のお客さんの会話は面白い。私の知らない世界の言葉がどんどん出て来てワクワクする。マンセルは以前お客さんに教えてもらった。今日は、『しゃりんがん』と『こぴーにんじゃ』と『このはいちのわざし』か。異名だって。どんな人なんだろうな。やっぱりすごい人なんだろうか。お昼時は気になっても忙しくて聞けないから困る。ああ、忍さんどうか意味だけでも教えてって帰ってくれないか! **** 「ごちそーさんでしたーっ!」 「うまかったよーアイリちゃん!」 「ありがとうございましたー!!また来てくださいねー!!」 ぴしゃりと扉が閉まる。さっきまで賑やかだったのが嘘のように静かになった店内。お昼時が終わったこの時間は寂しいような安心したような。さて、まだ黙々と食べてる常連のおじいちゃんにもちゃんと接客しなくては。おじいちゃんの少なくなったコップに水を追加すると、ありがとうとおじいちゃんの声。ふふふ、と自然と笑みがこぼれる。 がらら、と静かにドアが開く音がした。 「いらっしゃいませっ!あ!カカシさん!いらっしゃい!」 カカシさんは常連のお客さんでほぼ毎日のように来店してくれる。最初に見たときは忍者そのものな服装に少し怖がっていたけれど、カカシさんの独特な優しい空気感にだんだんと心を許してしまっていたのだ。 「まだランチやってる?」 「あ、やってますよ!今日はBランチがオススメです!」 「じゃあBで。」 「はいっ!おやっさんBランチひとつー!」 「あいよーっ!」 カカシさんはいつもランチタイムが終わるギリギリにやってくる。その方が安いランチ定食も食べれるし、店内も空いてるし都合が良いそうだ。 「アイリちゃん!Bランチお待ち!」 「はい!」 とんっ、と置かれたBランチと、カツ丼。 「アイリちゃんもお昼のまかない食べちゃいな!」 「あっ、ありがとうございます!」 おやっさんの、キランッと効果音がつきそうなくらいの笑顔に甘えて、カカシさんのBランチと共にまかないのカツ丼も一緒に運ぶ。 「お待たせしました!Bランチですっ!」 「ん、ありがと」 「また、ご一緒してもよろしいですか?」 「もちろんでしょ。」 カカシさんの向かい側に座って、「いただきます。」とカツ丼に箸をのばす。メニューにはないカツ丼だからか、羨ましそうにこちらを見るカカシさんに「店員の特権です!」と言うと「Bランチもおいしいもんねっ」と意地を張られた。 時々、おやっさんがタイミング良くまかないを出してくれると、こうしてカカシさんと向かい合ってご飯を食べる。初めは店内の端で食べていたのだが、カカシさんが「ひとりじゃ寂しいでしょ。」と私の目の前に座ってくれたのだ。怖かったカカシさんの印象が変わったのもこの時かもしれない。 カカシさんと一緒に食べるご飯は楽しい。私の知らない忍の世界のことを教えてくれるし、私が話すお店の話だって、笑顔で聞いてくれるのだ。私のトーク力じゃきっとつまらないだろうに。 「あ、カカシさん知ってますか?」 「ん?」 「 ”しゃりんがん” っていう技?を使う忍さんがいて、 ”こぴーにんじゃ” とか ”このはいちのわざし” って呼ばれてるらしくてすごい忍さんらしいですよ!」 カカシさんがブッとBランチの豚カツを吹き出しそうになって慌てて水を飲み干した。 「な、なにそれ。どこで聞いたのよ。」 「やっぱり知ってるんですね!今日来た忍のお客さんです!カカシさんは会ったことありますか?」 「え、あー、うーん、会ったことある、、、かなあ?」 「わあ!すごいですね!!やっぱ強い人なんですか?」 「んー?どうかなあ、、、?」 「へえー、うちの店来たことありますかね?」 「ああー、あるんじゃない?」 「ほんとですか!?じゃあ今度来てたら教えてくださいね!!」 うん、わかった。とカカシさんは笑顔で答えてくれたけど、とても微妙な顔でずっと答えてたからもしかしたらカカシさんは "こぴーにんじゃ" さんと仲があまり良くないのかもしれない。 ← |