番外編*定食屋さんの定休日 >>

常連客のカカシさんと晴れて付き合うようになってから、気付いた事がある。

ーーーー私って料理出来なくないか?

正しくはずっと前から気付いていたのだけれど、現実を見たというのが実際のところ。平日は朝は食べず、昼と夜はおやっさんのまかない。休日は、インスタントだったりお惣菜を買ったり。長いこと一人暮らしをしている私にとっては、決して不思議な事ではない。おやっさんのごはんは私が作るより一億倍美味しいし、自分ひとりのために料理をするのは少し、いや、とても億劫だ。何度か挑戦をしてみたが、やはり虚しいに尽きた。そして、私が自信を持って作れると言えるのが白米とお味噌汁となった。(お味噌汁は時々異常に飲みたくなるから覚えた。)しかし、問題が起きた。なんと、マイダーリンカカシさんが「アイリちゃん家でアイリちゃんの手料理が食べたい。」となんともまあ可愛い事を言ってきたのだ。そこは女の私。やはり彼のためなら手料理を振舞いたいし胃袋を掴みたいのが本望だ。だが、今の私には振る舞える料理も胃袋を掴む技量も、無い。咄嗟に「1週間、いや、2週間は待ってくれませんか、ね?」と答えた。「うん、わかった。」と少し残念そうに答えたカカシさんにきっとどんなに汚い部屋に住んでいるのかと思われたに違いない。そんなことどうでもいい。2週間もらったのだ。この2週間で料理を作れるようにならなければならない。

「よし。」

小さく気合いを入れ、私は本屋さんへと足を踏み入れた。新品な本特有の匂いが鼻を掠めた。お察しの通りである。レシピ本を買いに来ました!!

2週間。とカカシさんに宣言した次の日、おやっさんに料理を教えて下さい、と頼むと、「いやいやアイリちゃんはずっとお客さんの対応してくれないと困るよ〜」と多大なる勘違いをされたので、もう頼むのはやめた。私は厨房でシェフになるつもりはない。せめてキッチンに立てる女になりたいのだ。ということで、私の頼みの綱はレシピ本しか無くなった。

「えっと、レシピ、、、料理、、簡単な、初心者、、、」

レシピ本コーナーに到着すると、私は初心者向きの簡単で美味しく作れるレシピを探し始めた。それではないと作れない。

「ん?」

たくさんのレシピ本の中にレシピ本コーナーに相応しくない色、そして料理がひとつも書いていない表紙の本が、ぽん、と乱雑にたった一冊だけ置かれていた。きっと誰かがレシピ本を見ているうちに買うのをやめて置いて行ってしまったのだろう。あったところに戻すってお母さんに教えてもらわなかったのだろうか?
ふう、と溜息をつくと私はその本を手に取った。

「イチャイチャパラダイス、、、?」

あれ、これって、、、。
見覚えがある。それも見たのは一度だけじゃない。ふわっとカカシさんが思い浮かんだ。それも、この本を持って定食を待つカカシさんの姿だ。

「あ」

わっ、これって、これって!!忍さんの秘密が書いてある絶対にカカシさんが見せてくれなかった本じゃないか!!こんなところで出会えるなんて!!こんなところに売ってるなんて忍の秘密も大したことないな!!

歓喜の笑みに満ちた私は、どきどきしながらぱらりとページをめくった。

「、、、、」

ぱさり、とたくさんの料理達の上に笑顔の男女は寂しく落とされた。


****


「あれ、アイリちゃん!」
「うわっ!」

結局何も買わずに本屋を出てきた私は、足取り重く家路を歩いていた。すると、いつもなら会わないのに、こういう時に限って会ってしまうのだ。声の方を振り向くとご機嫌な様子のカカシさん。思わず変な声を出してしまった私に、「うわってひどいなあ」と頭をポリポリと掻くカカシさんの右手には、しっかりとあの本屋で見てしまった本が握られていた。しかも、今の今まで読んでいたのだろう、開いているではないか。

「ってえええええええええい!!!!!!!」
「っえ!なになになにどうしたの!!」

思い切り振りかぶってカカシさんの右手首を狙ったがやはり忍さん。さらりとかわされてしまった。ふーふーと肩で息をする私をなだめようとするカカシさん。

「その本!!」

大声を出した私にびくっとしたカカシさんは、本と私を交互に見る。左手を挙げているのはきっと私に触れてなだめようとしたのだろう。

「私を騙そうったってそうはいきませんよ!!!忍さんの秘密が書いてあるものだと醸し出しておいて!!私の尊敬の眼差しを返してください!!」

オロオロとするカカシさんだが、私は構わず続ける。

「そんなもん道端で、私のお店で読んで!!そんな、そんな、

とてつもなくえっちな本じゃあないですかあっっわ、もがっ!!」

大声で、そして道の真ん中で叫んだ私に驚いたカカシさんは一瞬戸惑い、そして手で私の口を塞ぎ抱えて、飛んだ。

「急にどうしたのよ、もう」
「〜〜〜〜っ!」
「あっ、ごめん」

ぱっと解放された口で思い切り空気を吸い込む。と、同時にものすごい高さに息を飲んだ。

「た、高い、、、!」
「忍の目線ですよ。」

ふわふわと地上に降りたり空に昇ったり、カカシさんに抱えられながら風を感じて気持ちが良い。

「て、ていうかっ!びっくりしましたよ!素晴らしい素敵な本だと思ってたのに!!」
「俺にとっては素晴らしい素敵な本なんだけどなあ」
「最低!」
「でも、アイリちゃんと話すときは絶対に読まないでしょ?」
「、、、そう、言われれば?」
「アイリちゃんに勝るものはないからねえ。」

ふふ、と笑うカカシさんをこんなに近くで見上げた事は初めてかもしれない。顔が熱くなった。どうしよう、かっこいい。

「ゆ、許す!」
「よし!」

たんっ、とやっと地上に帰ってきたと思ったら目の前に私の家のドアが。送ってくれたんだ。

「あ、ありがとうございます。」
「で?手料理はいつ?」
「うっ」
「いつ?」
「さ、3週間待ってください!!」
「あれ?!増えてない!?」

ばたん、嘆いているカカシさんの声を扉の向こうで聞いた。
明日、もう一度本屋さんに行かないと。









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