私は、カカシのことを何も知らない。


真っ暗な部屋の中、がちゃり、と玄関のドアが開く音が響いた。私は、被っていた布団を強く握り締めた。靴を静かに脱ぐ音を聞くと、何故だか愛しいという気持ちに襲われる。机の上に置いてあるラップのかかった鶏の唐揚げを見たのか、「やっぱり…」と呟いたと思ったら、はあ、と溜息が聞こえた。この真っ暗の中で今日の夕飯を確認出来たのは、やはり彼が "忍だから" という理由しか思いつかなかった。

彼は、私が寝ているベッドに近付いて頭にキスを落とすと、「ごめんね。」とひとつ。

それは、唐揚げを食べれなかったからなのか、待たせたからなのか、約束の時間に帰れなかったからなのか、私に、何も言えないからなのか。きっと全部なのだろうけど、私は寝ているフリをすることしか出来なかった。

洗面所の灯りが点いた。カカシは必ず私の家に来るとお風呂に入る。それは寝るだけの時も寝ない時でも変わらずなのだ。何故かと聞いたことがあるが、「アイリと触れ合う時に綺麗な方がいいじゃない?」と気持ち悪いことを言ってはぐらかされた。それ以降は聞かないようにした。

ぼんやりとシャワーの音を聞いて、カカシが出てくるのを待った。寝ないようにしているのではなくて、何故だか寝れないのだ。いつもぼんやりと待ってしまう。

洗面所から出てくると、カカシは唐揚げをひとつつまんで食べた。「ああ、うまいね。」と、独り言なのか私に言っているのか、どちらにも取れないような声で感想を述べた。

そして、そのまま私が寝ているベッドに潜り込んでくる。ぎゅっと私を抱きしめると「ごめんね。」とまた呟いた。

目を開けると、カカシの顔。

「ごめん、起こした?」
「ううん、いいの。」

そう言うと、私はカカシに抱きついた。
いいの。いいんだよ。私が初めから起きてたことも、カカシがお風呂から出てくるのを待っていたことも、全部知っているのでしょう?本当は窓から入った方が近いのに、わざと玄関から入ってくるのは私が一般人だからでしょう?約束の時間に遅れてしまうのも仕事って言ってるけど、人を殺めるような任務のせいでしょう?お風呂に必ず入るのも、身体に染み付いた血生臭い匂いが私につかないようにでしょう?全部全部、わかってるの。わかってるから、

「頭、ちゃんと乾かしてない」
「はやくアイリの布団に入りたくてねぇ」
「気持ち悪い!」

くすくすと笑ってどちらからともなくキスをした。

「唐揚げ味。」
「あはは。美味しかったよ。」
「カカシ、」
「ん?」


「…すきだよ。」


うん、と小さな声でそう言うと、力いっぱい私を抱きしめた。

私は、カカシのことを何も知らない "フリ" をする。
それが一番幸せだと気付いたの。




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