「おはよう、アイリ。」

目を開けると鼻を掠める朝ごはんの匂いと、愛しい彼の声が私の寝惚けた脳を刺激する。

「もうすぐで出来るから顔でも洗ってきなよ。」

うん、と言う私の絞り出したような小さな声は彼に届いただろうか。
朝は、苦手だ。
彼の言う通りに洗面所で顔を洗ってまたリビングに戻ると、完璧な朝ごはんと席に着いた彼が私を迎えた。

「ほんとはいつも早く起きて朝ごはん作ろうと思ってるんだよ。ほんとに。」

私が椅子に座りながらそう言うと、

「アイリが朝苦手なの知ってるから。」

彼はほんの少し笑ってそう言った。私が微妙な顔をしたところで、手を合わせて「いただきます。」と声を揃えて挨拶をひとつ。

いまだに、朝起きると彼がいることに慣れない。朝ごはんを食べることも、ゆっくりごはんを食べるためにこんなに早く起きることも。カカシと同棲し始めてから3ヶ月が経つ。最初は本当にどきどきしっぱなしで、初めの頃はカカシと一緒のベットでなんて落ち着いて寝れやしなかった。「すぐ慣れるよ。」と、優しく言って私の頭を撫でたカカシを思い出すと今でも顔が熱くなる。3ヶ月経った今では、任務を終えて帰ると部屋の電気が点いているとすごく幸せな気持ちになるし、点いていなくてもカカシが帰って来るのだと思うだけで幸せだ。もっと言うと、カカシと一緒に同じ家に帰って来る時が一番の幸せだ。ふたりでごはんを食べ、ふたりでテレビを見て、ふたりで一緒の寝床に入る。全部、ひとりだった部分がふたりになる。思い返すと自分はなんて幸せ者なのだろうと実感する。
しかし、朝だけは何故だか不思議な感覚で、カカシの声とごはんの匂い、自分の中に無かった生活を、私の寝惚けた脳は理解出来ないみたいだ。なんとも言えない、いや、しかし、目の前で、「俺、朝だけはちゃんと食べたいんだよね。」とお茶碗片手に話す彼を見て思う。

「なに、俺のことじっと見て。あ、おいしくなかった?」
「ううん。とってもおいしいよ。」
「そ。ありがと。」
「ただ、」
「ただ?」


「とっても幸せだなあって」

なによ、それ。と照れる愛しい彼に私はにっこり微笑む。
ああ、一番好きなことはずっと慣れないのね。





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