カカシの家に通うようになってから何年経ったのだろう。

それはきっと私がカカシと出会ってからで、その理由は幼馴染だから、としか言いようがない。なんの疑問もない。幼馴染だから。そう、それだけ。そして、今日もふたりでごはんを食べ、ふたりでソファに座ってくつろいでいる。だけ。

「あのさ、カカシ」
「んー?」

私の呼びかけにカカシは目も動かさず、ぱらりといつものあの如何わしい本のページをめくる。

「…なによ。」

何も言わない私に、痺れを切らしたカカシはダルそうに顔をこちらに向けた。

「…彼氏が出来たの。」

興味がなさそうに「ふーん。」と答えるとまた本に視線を戻したが、カカシの身体がぴくりと反応したのを私は見逃さなかった。しかし、私は見ないふりをする。

「なに、なんでそんな興味なさそうなの。」
「ん?んー、じゃあー、どんな人なの?」

だるそうに質問するカカシ。
私は背もたれに預けていた背中を今度はカカシに預ける。

「優しくて、かっこよくて、強くて、たぶんすごく私のことが好き。」
「…最後のはちょっとサムくない?」

そんなことないよ!と反論する私に、はははと乾いた笑い声をあげると、カカシは両手を私の肩に乗せた。
ううん、押したんだ。

「じゃあ、もうくっついたらだめね。」
「なんで?」
「なんでって…彼氏がいるじゃない。」

眉を下げて笑うカカシをじっと見ていると、カカシの眉がどんどん下がっていく。
私の目から涙が溢れたのだ。

「…あー、ごめん、て、えー、んーと、俺謝るところじゃないよね?」

焦るカカシの右手は宙に浮いて彷徨っている。

こんなシチュエーションは何度かあった。私は好きな人ができる度にカカシに相談をした。その度にカカシはうん、うん、と聞いてくれていて、それが嬉しかった。今回もそのはずだった。

「ごめ、ごめん、、ごめん、ちがうの…っ」
「え…アイリ?なに?どうしたの?」

声が焦る。私も、カカシも。
どうして、涙が出るの。

「…泣くなよ。」

優しいカカシの声が私の耳に響く。
また、目が熱くなる。

「アイリが、泣くと、あー、困る。」

たどたどしくカカシが話し始めた。
私の目からまたひとつ涙が流れた。

「彼氏、できたんだろ。幸せになったんだろ。じゃあなんで泣くんだよ。

…泣きたいのは、俺でしょうよ。」

私が顔を上げると、さっきまで宙に浮いていた右手はカカシの目を覆っていた。

「…カカシ?」
「なによ」
「それって」

ああ、カカシの耳が赤くなるのが分かる。
それに合わせて、私の顔も熱くなる。

涙は止まった。

「うるさい」
「カカ、」
「うるさい」

くちに触れる、くち。熱い。
きみとの話題のための「彼氏」と明日さよならしてこよう。

ああ、本当に、すき。




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