クーラーが効いているはずなのに、窓の外で鳴いている蝉のせいでどうして夏はこう暑いと思わせるのだろう。カレーを作りに来ると、彼女が叫んだあの日も、今日と同じように暑かった。もしかしたら今日より暑かったかもしれない。冷蔵庫にあった食料も遂に尽きて、重い腰をやっと起こし、近所のスーパーに買い物に出かけたあの日だ。この暑さに料理をする気力も無く、惣菜コーナーに直行したら、久しい顔に声をかけられたのだ。生徒だったあの頃と同じように無邪気に笑う彼女を見て懐かしい気持ちでいっぱいになった。色が変わった髪も、制服では無くなった服も、全部が大人っぽくなっていたけれど、彼女の笑顔は変わらずで、彼女の笑顔をもっと見たくなった。
今日を迎えるまで、どうも胸がそわそわして仕方なかった。あの日、別れた時の彼女の顔がどうも大人っぽくて頭から離れなかったのだ。やっと今日になっても、胸の高鳴りは落ち着く事は無くて、テレビを見ながらちらちらと彼女を盗み見ていた。慣れない手つきに一生懸命にカレーを作る彼女はやはり子供らしくて、父の日に娘がカレーを作ってくれているような感覚に安心した。それでなくては、彼女の背中を抱きしめてしまう気がしたからだ。
それなのに、時々見せる伏し目がちな彼女の笑顔にドキドキした。キスしてしまいそうになった。我慢していたのだ。なのにだ、思い切り缶ビールを飲み干した彼女は、その勢いで銀八の唇に噛みつくようにキスをしたのだ。

「っおい、」

銀八はアイリの行動に驚き、彼女の肩を掴んで引き離した。

「お前、酔ってんのか?」
「・・・酔ってないよ」

そう答えるアイリの顔は俯いていたがひどく赤らんでいるのが分かったし、さっきの行動もどう考えてもおかしい。心配そうに、銀八がアイリの顔を覗き込もうとすると、また驚かされた。アイリの手が銀八の内腿にのばされたのだ。

「酔ってんな」

確信してそう言うと、銀八はアイリの頬に右手を添えて、自分の方へと向かせた。目は潤んでいるし、触れた頬は火照って熱い、きっと、身体も。考えると、銀八が我慢していた物が崩れ落ちたことが分かった。触れられた内腿の先にあるモノは既に大きくなっている。ガシガシ、と左手で頭を掻く。彼の、癖だ。

「いいか」

その質問に、アイリが答える前に銀八の顔が近付き、唇に触れた。それからアイリの唇を食べてしまうみたいな深いキスに変わり、ぬるりと舌が侵入する。丁寧に味わうように、ふたつの舌が絡み合う。いつのまにか空いていた左手は腰に回されていた。やっと解放された時には、もうすでにアイリの呼吸は乱れていた。

「はっ、銀ちゃ、酔ってんの?」
「おめえがな」

もう一度、アイリにキスが落ちた。するりとアイリの服の下に手が滑り込んで、銀八の大きな右手が彼女の胸に触れた。

「っ、ひゃあっ」

アイリが小さな悲鳴をあげると銀八はハッとした。赤い頬に、力が込められた眉間、口は薄く開けられている。扇情的な顔のアイリに自身が興奮してくるのと同時に、自分がいけないことをしているのではないかという衝動に駆られた。彼女の余裕のない表情が、銀八の罪悪感を駆り立てたのだ。

「あーーー、と、悪りぃ。」

銀八はそう言うと、アイリの服の下からそっと手を抜いた。アイリから視線を外すと、銀八は、今日何度目かの癖をした。カレー皿と缶ビールをキッチンへと運ぼうと立ち上がった。シンクに皿を置くと、かたんと音がした。二つの皿についたカレーが水によってどんどん落ちていくのをぼうっと眺めていると、高校生の頃のアイリが頭に浮かぶ。アイリがいた3年間、彼女とどれだけ会話をしたのだろうか。思い返すと、アイリのクラスの現代文を担当した最後の1年間だけなのではないだろうか。問題児クラスの担任だった銀八にとって、アイリのクラスは安らげる場所だった。静かに授業を受け、授業が終わった後にバカらしい下ネタを聞いてくる男子や、意味も無い話題をキャピキャピと振ってくる女子。全部3年Z組のやつらには無い普通の可愛らしい平和なクラスだ。その中でも特に目立つわけでも無く、女子達の中に紛れて話しかけてくれたのがアイリだ。黒い髪に、注意され無い程度の薄い化粧、短いスカート。ちゃんとアイリは紛れていた。なのに、再会した今、どうしてこうも愛しいという感情が出てきてしまうのだろう。茶色くなった髪、化粧も上手くなって、制服を着ていたのが嘘のように大人な服装に、生徒だったということを忘れてしまいそうだ。そう、彼女は生徒なのだ。そう自分に言い聞かせて理性を保たせた。

「・・・銀ちゃん」

小さく呟かれたその声にハッとして振り向くと、ソファーに座るアイリ。目は涙でいっぱいだ。

「・・・私、あの、ごめん」
「え、あ、いや、違う」
「ううん。私、なんか、恥ずかしいよね。ごめん。」

アイリはゆっくり膝を抱えると、その膝に顔を埋めた。
小さく丸まってしまったアイリに、銀八は恐る恐る近付くとその隣に腰をおろした。ずんと、ソファーが沈む。アイリ
は微動だにせず、きっと泣いているのだろうと思った。

「・・・お前が、大人っぽくなってて困ってんだ。俺の知ってる如月はもっと子供で、ただの生徒だ。」

銀八はそう言いながらアイリを抱きしめたくて仕方なかったが、触れることさえできなかった。アイリがとても壊れそうだったからだ。
鼻をすする音が聞こえて、アイリが顔をあげた。涙が落ちて、アイリの膝を濡らした。

「・・・私は、もう大人なんだよ。もう、銀ちゃんの生徒じゃない。」

アイリはそう言うと銀八の唇に口付けた。微かに唇が震えていることに銀八が気付くのに時間はかからなかった。先程の酒の勢いのキスでは無く、彼女が勇気を振り絞ったのだ。

「・・・もう遠慮しねえからなコノヤロー。」

唇が離れて数秒の間の後、銀八はそうアイリに宣言すると、彼女の首元に顔を埋めた。そこが薄い桃色にじんわりと色を変えたのを確認すると、銀八はアイリのブラウスのボタンを上から順に外した。肌がどんどん見えてくるところにどんどんと降ってくるキスにアイリはどきどきした。ついに全部外され、アイリの小ぶりな愛らしい胸が桃色の可愛らしい下着と共に露わになった。こんなに若くて綺麗な胸を見たのはいつぶりだろうと、銀八は思わず喉を鳴らした。それに気付いたのか、アイリは遠慮がちに腕で胸を隠す。そんな動作でさえも愛しい。

「そ、そんな見ないでよ・・・」
「隠すなよ。・・・綺麗だからよ。」

その言葉に沸騰するくらい顔を熱くしたアイリに銀八が微笑む。アイリの唇に深い深いキスをすると、銀八はアイリの胸に手をのばした。ぴくんと少し反応したが、さっきのように悲鳴をあげることもなく、銀八を受け入れた。無論、キスに夢中で悲鳴さえもあげられないのだろうが。やわやわとその手を動かしていく。銀八の右手にすっぽりとおさまってしまう胸は、柔らかくて、可愛らしい。ブラジャーを上にずり上げると、それもまた可愛らしい乳首が現れた。指が乳首に触れるたびに小さく震えるアイリをもっともっと感じさせてやりたくなった。深いキスからアイリを解放し、今度はもう片方の乳首に吸い付いた。すでに荒くなった呼吸はとてつもなく扇情的だ。

「っは、あ、んっは」

時々、零れ落ちるアイリの吐息。それに合わせるように、口の中で乳首を転がすとアイリは堪らなく身をよじらせた。空いている左手をお腹、腰、とどんどん滑らせていき、ついに彼女のソコを下着越しに触れた。

「!っあ」
「もう、ちゃんと濡れてる」

しっとりとした感触が下着越しからでも分かった。割れ目に沿って指を動かすと、アイリはどんどん身体をよじる。銀八は面白がって、彼女の敏感な部分をこすりあげた。

「んひゃあっ」
「はは、可愛いじゃねえか」
「っは、う、うるさいなあ!」

まだまだ生意気な彼女に銀八はにやりとして、アイリのパンツをおろした。とろけてしまいそうにぐしょぐしょに濡れたソコは、はやく、と疼いているようにしか見えない。もう一度、そこに手を触れると、すんなりと埋もれていく指。熱くなった中に指が溶けてしまいそうだ。

「すげえ、めっちゃやばい。」
「へへ、銀ちゃ、女子高生みたいだよ」

そう、苦しそうに無邪気に笑う彼女は銀八をさらに興奮させた。カチャカチャとベルトを外し、パンツを脱ぐと、待ってましたとはち切れんばかりに大きくなった自身が現れた。

「如月、いいか?」
「ねえ、銀ちゃん。」
「あ?」
「・・・私のこと、名前で呼んでよ。」

随分と大人っぽい顔だった。あの高校生だったアイリが、本当に "大人" になったのだと実感した。
いつの間にか裸になっていたふたりは、きっともう対等になったはずだ。

「ああ、分かった。アイリ。」
「ふふ、大好き。銀ちゃん。」

微笑んだアイリにキスを落とすと、優しく優しくアイリの中に自身を挿入し始めた。

「ん、あ、あっ」

熱く締め付けるアイリに銀八は顔をしかめる。全部入ったことを確認すると、銀八はふうと一息つく。

「ん、うごくぞ」
「う、ん・・・!」

ゆっくりと動き始めると、快感がふたりを襲った。

「あっ、ああっ、は、っは、」
「やっべ、もう・・・・!」
「ああっ、ん、わ、わたしも、・・・イク、っは、あ・・・!」

銀八はアイリのその声を聞くと、腰の動きを一層速める。
ふたりは荒い呼吸のまま、同時に果てた。


****


目を開けるといつの間にかベッドの中にいた。一緒に果て、寝てしまったその後、銀八が運んでくれたのだろう。
肌に擦れる布団の感触に、自分が一糸纏わぬ姿だということに気付くとなんだか恥ずかしくなった。横を振り向けば気持ち良さそうに寝息を立てている同じく一糸纏わぬ姿の銀八がいて、ああ、本当にしてしまったのだな、と実感する。

「銀ちゃん、好き。大好きになっちゃった。」

独り言のようにそう呟いて、また自分で恥ずかしくなる。寝ていることを良いことに、なんてことを口走っているのだろうか。誤魔化すように起き上がると、アイリは昨夜脱がされた服を拾い集め、着替え始めた。シャワー、浴びたかったけど仕方ない。もう、会えないのかな。またスーパーに行けば会えるのかな。アイリは昨日来た格好に着替え終わると、玄関へと向かった。焦って脱げなかった靴も、今となっては問題なく自分の足にはまった。

「よし、ばいばい銀ちゃん。」

そう呟くと、アイリは玄関のドアノブへと手を伸ばした。

「ちょっとちょっと!銀さんヤリ逃げされちゃうの?」

急な声に振り向くと、慌てて着たのか、パンツ一枚の銀八の姿。

「えっ、ちが、で、でも、」

戸惑うアイリに銀八はガシガシと頭を掻きながら近付く。ふう、と溜息をつくとゆっくりと口を開いた。

「俺も、アイリのこと大好きになっちゃったんだけど?」
「えっ、お、起きてたの?!」

にやりと笑った銀八に驚くと、しっかりと抱き寄せられた。



(おわり)



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