ぼうっとしていると、気付いたら昨日の夜のことを考えてた。近い距離で話していたカカシ先生は、どこかシャンプーの香りがした気がした。低い声は準備室で喋るより色っぽく聞こえて、ドキドキした。もらった水は、なんでだか開けられなくてリュックの中にしまいこんだ。頭の中を占めていく先生の姿は、私をすぐににやつかせた。

「アイリ!」
「わっ!」

そうやって過ごしていたら、あっという間に時間が過ぎて3日目の自由時間になり、私は国際通りにいた。彼氏と過ごす人もおり、仲の良いメンバーも4人と少人数になってふらふらと気になる店を転々としていた。私のことを呼んだのりちゃんは、この自由時間は進藤くんとは過ごさず、女の子で過ごしてくれるようだった。

「これ、みんなでお揃いってどうかなあ」

のりちゃんはふわりと笑って綺麗な色のブレスレットを私に見せてくれた。

「あ、かわいい。」

私もつられて笑うと、のりちゃんは意気揚々とじゃあみんなの分持ってくる!と今いない子達の分も張り切って選びに行った。
そうか、お揃いかあ。きっと友達以外でも彼氏とお揃いでみんな何かしら買っているのだろうな。ふと、目線を下にやると、キラリと小さく輝くサンゴのストラップがあった。

「・・・かわいい」

触れると揺れるふたつの赤いサンゴの隣には白いサンゴもふたつ揺れていて、白と赤のサンゴはまるでセットのようだ。いつもなら無駄だ、と諦めるのに、ここが沖縄だからか、修学旅行だからか、無性に欲しくなってしまった。私はストラップをふたつ握りしめるとレジへと向かった。


****


「アイリ!!ほんとにごめん!!」

3日目、水族館に着くなり両手を合わせ私に平謝りするのはサクラといので、何故なら「やっぱり最後の自由時間は好きな人と回りたいじゃない?」ということだった。女子にモテモテのサスケくんは水族館も女子に囲まれて(本人は嫌がっているようだが)回るようで、それを知ったふたりも他の取り巻きに負けられない、とその女子達に入っていくそうだ。
ふたりの恋も大変だ。私だったらたくさんの女子に埋もれてしまうに違いない。それに、ライバルがたくさんというのは、誰かに取られてしまうという不安で常に心が痛いのだろうか。きっと私は耐えられない。その前に、サスケくんなんかよりカカシ先生の方が数億倍もかっこいいんだからそんな心配もないんだけれど。
3人で回るつもりだったので、私が一人取り残されてしまうことを気にかけて「アイリも一緒に回る?」と言ってくれたが、バチバチの女子達と仲良くもないサスケくんと一緒に回るのは苦痛だと瞬時に判断した私は大丈夫、と笑って答えた。

「さて、どうしよ。」

ぱたぱたとサスケくんの元へ駆けて行くふたつの背中を見送ると私は途方に暮れた。のりちゃんは進藤くんといるはずだから邪魔はできないし、他の人達は恋人がいたり、他の友達と約束をしている。最後の自由時間でひとりぼっちになるなんて考えもしなかった。暗闇を照らす青い水槽の中ですいすいと優雅に泳ぐ魚達は、随分と楽しそうだ。この小さな水槽という世界の中でも友達がいたり、恋人がいたりするのだろうか。みんな同じ顔をしてるのに、ちゃんとその人を見つけられるのだろうか。

「あ、先生…」

ああ、そっか。そんなこと心配しなくても良いんだ。きっと、私が人混みの中でも暗闇の中でもどんなところでも絶対にカカシ先生を見つけられるように、魚達も大切な人はすぐに見つけられるんだよね。同じだ、同じ。
ふらふらと(多分)見回りをしているカカシ先生の元へと足を運んだ。白々しく肩を並べると、カカシ先生は私に気付いて魚達を見ていた目線を私へ落とした。

「あれ、ひとりなの?」
「うん!なんか、みんな好きな人と回るんだってさー。そしたらひとりになっちゃった!」

わざとらしく明るく言うと、カカシ先生は苦笑した。

「そっか、まあ、最後の自由時間だもんね。」
「うん、だから、あの、わ、私も、好きな人と回りたいなー…なんて、」

私がカカシ先生にしか聞こえないくらい小さな声でそう言うと、先生は眉を下げた。あ、やっちゃった。また困らせた。

「…俺、ジンベイザメはどうしても見たいんだよね。」
「…え、」
「エサやり、するみたいよ?」

幻聴なんじゃないかと思った。困った眉はそのままなのに、先生の口はちゃんと動いてる。

「あれ、見たくない?」

もう一度動いたのを確認すると、私は思い切り答えた。

「見たい!!」

ジンベイザメの水槽までここからそんなに遠くないはずなのに、先生と肩を並べて歩いているってだけですごくすごくドキドキして、世界一周するんじゃないかってくらい長く感じた。なのに、まだ着くなって思う自分もいて、私の心臓は大忙しだった。

「なんで、ジンベイザメなの?」
「ん?お前が置いてった旅行雑誌にあれだけたくさんオススメって書いてあったからね〜。見なきゃ損かなって。」
「あ、あの雑誌見たんだ!」
「そりゃ、机に大量に置いてかれましたから。」
「う、ごめんなさい。」

私、普通に喋れているのだろうか。変じゃないだろうか。
ジンベイザメの水槽はこの水族館の中で一番大きな水槽らしい。もうすぐエサやりの時間だからだろう、この大きな水槽の周りに人がこれでもかと集まっていて、そこに紛れるように二人でジンベイザメを眺めた。ちらりと先生を盗み見ると、水槽の光で青く照らされていてなんだかとても不思議な気持ちにさせられた。きっとエサやりが終わったらまたひとりになるんだろうな、先生のミッションはもう終わったもんね。
時々触れる肩が熱い、熱いなあ。



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