いつもカカシ先生と(一方的な)喧嘩をする時は、大体機嫌を損ねた私が段々先生と会えないことに我慢ならなくなり準備室に会いに行ってしまうことで、喧嘩は終焉を向かえる。
しかし、今回は違う。我慢ならなくなる前に、修学旅行の日が来てしまったのだ。和気藹々と集合場所の空港に集まる生徒達の中に気分重く辿り着いた私は、やっぱりすぐに見つけてしまうカカシ先生の姿を恨めしく睨んだ。昨日、会いに行けば良かったのだ。そしたらカカシ先生と自由時間は過ごせなくたって、会うたびに話しかけられたし写真も撮れたかもしれない。私は深く溜息をつくと、自分の班へと向かった。

実行委員長が皆に声をかけ、朝のHRが始まった。ぼうっと委員長が一生懸命に注意事項を読み上げる姿を見ていたが、ふと視線をうつすとダルそうに立つカカシ先生を見つけた。

「(かっこいいな、ちくしょう)」

学校では白衣を纏ってるカカシ先生も今日は普通の私服で、シンプルな服はカカシ先生らしくてとても似合っている。時折委員長から生徒達へと目を向けるからその度に目線を逸らした。見てませんよ、というアピールなのだが、実際カカシ先生は私を見ているわけでもないのだからなんだか悲しくなった。

それから、飛行機に乗り込み、友達と談笑していたらあっという間に沖縄についた。1日目のクラス行動の開始だ。興味の無いお城や遺跡を見て、有難いお言葉なんだぞ、と担任に言われながら現地のおばあちゃんの話を聞いた。時々カカシ先生のクラスとすれ違って、先生の隣を歩く生徒を睨んでしまった。ずるい、ずるい、私はこんなにも気分が晴れないのに、先生は平然と他の生徒と楽しそうに過ごしているのだ。なんで、私ばっかり。



「ねえ!やばい!どうしよう!」
「え、なになに」

ホテルの部屋に着くなり大きな声を出したのは、同じ部屋ののりちゃん。両手を頬に当て、居ても立っても居られないといった様子で足をバタつかせた。

「さっき、首里城行く途中、進藤くんに今日の夜に話あるって言われた。」
「ええ!」

のりちゃんの発言で部屋のみんなが大きな声をあげた。私もそのひとりだ。進藤くんは同じクラスのサッカー部の男子で、のりちゃんのことを好きということはきっとのりちゃん以外みんな知っている。やっと勇気を出したのか、とみんなが微笑ましくのりちゃんを見たが、当の本人は赤い顔で困っていた。
こうやって、人は青春を過ごしているのかと、のりちゃんを見てぼうっと思った。私の青春の相手は、もう青春を終えていて、私の青春には付き合ってくれないのだ。

ごはんを食べたりお風呂に入ったり寝る準備をし終えると、やっと消灯までの自由時間が始まった。6人部屋に仲の良い10人が集まると、布団の上でのりちゃんを送り出した。

「のりちゃんファイトだよ!」
「頑張るのは進藤だけどね」
「話終わったら即報告ね!」

「うん、行ってきます!」

お風呂上がりののりちゃんは、化粧も何もしていないのになんだか妙に色っぽかった。恋の魔法はすごいなあ、と思いながらのりちゃんに手を振り、そして思い浮かんだのは先生の顔。今頃、先生は何をしているのだろうか。先生達とお酒でも飲んでいるのだろうか。ああ、そういえば日本史の先生はカカシ先生のことお気に入りみたいだったな、ベタベタしていなければいいけど。

しばらくすると、のりちゃんが赤い顔をさらに赤くして帰ってきた。進藤くんに好きだと言われ、そして、自由時間の水族館を一緒にまわろうと言われたらしい。のりちゃんのどきどきする話をどきどきしながら身を乗り出して聞くみんなの頬は自然と笑みがこぼれていた。
わいわいと恋の話に花を咲かせ始めたみんなの話題が私の順番になる前に飲み物を買ってくると言い残して部屋を出た。先生が好きだなんて、みんなに言ったらどう思うんだろう。応援されるだろうか、それとも、止められるのかな。

ガコン、と大きな音を立てて出てきたソーダを手に取り、自販機の目の前にあるソファに腰をかけた。奥まった小部屋に設置された自販機は、外からは見えない。先生がもしも私の同級生だったら、ここに呼び出して二人でジュースを飲みながらソファに座って、好きって言うのに。そしたら、先生はなんて言うだろうか。「うん、よろしく。」かな。もしも、同級生だったら、だけど。

「すき、」

「こーら。」
「!!」

小さく呟いた二文字は、誰にも届かず消えてしまうはずだったのに、思いもしなかった声が返事をした。猫みたいに毛が逆立つくらい驚いて、振り返ってみると、今一番会いたかった人。でも、でも、聞かれただろうか、ひとりでぽつりと言った言葉を思い返すと私の頬はかーっと赤くなった。

「もう消灯時間過ぎてるよね〜。」
「え、えと、く、薬飲むために水を買いに、」
「思いっきりソーダだけど?」

じとりとソーダへの視線を感じ、慌てて隠す。先生は、大きな欠伸をするとどさりと私の隣に腰掛けた。どきり、私の心臓が高鳴った。久々に聞いた先生の声、近い距離、そして、普段と違う私服の先生。私の目が先生に奪われる理由には充分すぎる。
目が合いそうになって慌ててそらしてしまった。気まずさに発言しなければと口を開く。

「あの、消灯時間、いいの?」
「俺の見回り担当時間まであと10分。だからいいよ。」
「ふ、ふうん。」

なんだよ、それ。本当に先生はずるい。だから単純な私はコロリと騙されるんだよ。
少しの沈黙、破ったのはやっぱり私だった。

「あのさ、」
「ん?」
「えと、ごめんな、さ、い・・・」
「なにが?」
「えっ、あ、ずっと怒って話さなかったから…?」

そういえば、どうして怒っていたのだろう。問われるとわからなくなってしまって疑問系で答えると、カカシ先生が吹き出した。

「ふはっ、はは。ほんとだよ。準備室に旅行雑誌大量に置いてきやがってさ。」
「う、あ、ごめんなさい」

そうだ、旅行雑誌も気まずくて取りに行けなかったんだ。雑誌、どうしてたんだろう。私が取りに来るのを待っていたのだろうか。あんなに大量な雑誌、迷惑だっただろうな。
そんなことをもんもんと考えていると、ガコン、という音にハッと顔を上げた。

「ほら、薬は水で飲みなさいよ。」

目の前に差し出された水は、なんだかキラキラしているように見えた。薬なんて飲まないのに。きっと先生もそんなこと分かってるはずなのに。受け取る右手がどきどき震える。

「あ、ありがとう。」
「ん。じゃあ、俺も見回りの時間だから如月も部屋戻んなさいね。」
「・・・うん。」

立ち上がるとまた近くなる距離にどきどきした。とん、と背中を軽く押されて廊下に出された。触れられた背中が熱い。ああ、もっと一緒にいたいよ。

「せんせ、」
「ん?どうした?」
「・・・ううん、おやすみっ!」

バタバタと自分の部屋まで走った。左手にソーダ、右手に水を持って。赤い顔も、速い鼓動も全部走ったせい。

先生、おやすみじゃなくて、好き、って言ったら、先生はなんて言った?



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