小説 | ナノ


たった一言


 「あたしはなっ!お前が羨ましいし、妬ましい!!その才能が、サヴァン症候群が、誰もできないような発想が、ほしかったんだよ!!」

プツンと音を立てて頭の中の理性の糸が切れて、気付けば常日頃から思っている事を叫んでしまっていた。思っていても、決して相手には言わないように気を付けてきた事を。
飛び出した言葉を嘘だと取り繕わなければと思ったが勢いがありすぎたし、妙な間も空きすぎた。
感情のままに叫んでしまったのが恥ずかして悔しくて、その場から逃げようと踵を返そうとした瞬間、識鑑が口を開いた。

「わたしもあなたが、うらやましいのかもしれません」

一瞬、身体が固まった。今まで妬みから来る嫌みやらクソみたいな皮肉やら、あるわけのない事やらの蔑みの言葉なら言われまくったことはあるが、羨ましいだなんて言われた事がなかった。妬みの気持ちは分かるし、あたしだって散々思ってるし言ったきた言葉達だったから別に痛くも痒くもなかったけど、やっぱり純粋に「羨ましい」だなんて言われると、すごくすごく、照れる。

「な、おま、ばか」

一気に耳まで真っ赤になって、呂律が回らない。

「っ〜〜〜〜!!!」
「九乃さん?」
「羨ましいだなんて言うんじゃねーよ、はっずかしい事さらっと言いやがって!!」
「私は思ったことを言っただけですよぉ。それにさっき九乃さんだって」
「うるせぇ!お前なんて大嫌いだ!!」

自分の事を棚に上げ、理不尽に怒鳴り付けてから、今度こそ全力で走って自分の部屋へと逃げ込んだ。走ったからというだけでは説明がつかないくらいに心臓がばくばく言ってるし、何より口許が緩んでしまう。パソコンをつけて落ち着こうと思っても、さっきの言葉で頭がいっぱいでパスワードを間違えまくった。そのせいでしばらく使えなくなってしまう。
仕方なくずるずると椅子にもたれかけて、深呼吸をする。あーくそっ、あいつのたった一言で、こんなに浮かれるだなんて思ってもみなかった。

prev / next

[ back ]

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -