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千代のやりたい事3


千代が烏瑪にいってきます、と一時の別れを告げてから、数週間が経った。
あれから後に『出雲大乱』と呼ばれた戦いは大内裏が燃やされ、白鷺塾の塾長である鷺ノ宮が重症を負ったので、手当てを受けるために病院を占拠している帝一族に総攻撃を仕掛け、数時間の長い戦いが行われた。そして勝ったのは、白鷺塾だった。
それにより目的を果たした白鷺塾は閉塾となり、ある者はそのまま出雲に留まり、ある者は西京都や大阪帝国等の別の場所へと旅立ち、もしくは帰って行った。白鷺塾に住んでいた千代は、出雲内にある実家へと帰っていった。
学校はいささか遠いが、通えない事もないので白鷺塾にいた頃のままだ。しかし体の方は今まで通りと行かず、出雲大乱中の無理がたたったようで入院する羽目になった。
友人達は遠いと言うのに病院にまでお見舞いに来てくれて、とても千代の事を心配してくれた。だがうつると行けないから、と会える時間は短い。
そんな日々が続いて早一週間半。千代の病気は良くなるどころか、悪くなる一方だった。医者はそのうち良くなると言っていたが、千代にはどうにもそうは思えない。出雲大乱が終わって家に帰ってきて、心配だからとかかりつけの病院に検査に行ってから、どうにも両親の様子も医者の様子もおかしい。それに何となくだが、千代はいつもの病気とは違う物を感じていた。
そしてその日、扉越しに少しだけ聴こえてくる会話に、千代は耳をすましてしまった。何となくの予感だけだった物を、確信に変えるために。

「お医者……あの………………本当に…………でしょうか……」
「…………はい。……状態……………無理かと……。……は千代…………好きなこ………あげて………」

千代が寝ているものだと勘違いしている母と医者はなるべく小さい声で話しているので、途切れ途切れにしか聞こえなかったが、千代の予感を確信に変えるには十分な会話だった。要するに、「千代はもう助からない」という事らしい。
そうして確信を持てた千代は、とある決心を固めた。病院服のままいつかと同じ様に窓からこっそり病院を抜け出す。今回は一階ではなかったので、いつもの式神でなく鷲に似た、しかしそれよりも一回り以上大きい式神で、だが。
三階から地上に降り、式神に礼を言ってからいつもの式神に切り替える。その上に寝転がるようにして乗ると、千代は前と同じ場所を指定した。前は偶然だったが、今度は彼に会うためだ。

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