小説 | ナノ


初めての我儘


百緑が、初めてうちらにお願いを言った。

「あの、藍蘭さん、こうら……リスィさん、お願いが、あるんです」
「なんや?」
「あんたがお願いとは珍しいね?」

二人して驚きながらも聞く姿勢を示す。すると百緑はいつもの倍以上はおどおどして下を向きながら少しの間だんまりを決め込む。百緑の事だから申し訳ないと思う気持ちとせめぎ合ってでもいるんやろう。
一分ほど待っていたら、ようやく百緑は意を決したようで口を開いた。

「あ、あのっ……!と、友達をっ、夕飯に誘っても良いでしょうか……!」
「「えっ」」

驚きの声が重なる。『あの』百緑に友達ができた。一瞬本当かどうか疑ってしまう言葉だ。だって前世を含めての今までで、百緑が友達の話をした事なんてなかったし、そもそも前世では常にうちらの後ろを着いてきて、今世ではうちらが学校に行ってる間は家に閉じこもっている。
うちらが一度死んで転生している間は毎日のように街に下りて探していたらしいけど、今世で会ってからも友人の話を聞かないということは、作らなかった、もしくは出来なかったらしい。
その百緑に、臆病者で人見知りで気弱で消極的で受動的な百緑に、友達ができたなんて。疑ってしまうのも仕方ないと思う。
固まったうちとリスィにどう反応して良いのか困ったらしい百緑はおろおろとうちとリスィを交互に見ている。先に衝撃から帰ってきたのはリスィで、

「あ、あぁ。もちろん良いよ。夕飯作ってくれてるのは百緑だしね。それにたまの我儘ぐらい、通してやらないわけにはいかないよ」

と答えた。そして未だに衝撃から帰ってこれないでいるうちに向かって「藍蘭も、良いよね?」と振ってくれる。それでようやくくるくると巡る思考を振り切って、なんとか衝撃から帰ってきた。

「そりゃ百緑がええんやったら別にええけど……」

驚きの声音のまま、百緑の我儘を承諾する。毎日ご飯を作ってくれるし、紅蘭探しも手伝ってくれて無事見つかったし、そんな百緑のお願いを断るのは流石のうちでも心が痛むというもの。
その言葉を聞いて、百緑は安堵したようで顔がほころぶ。百緑の笑顔は、すごくすごく久しぶりに見た気がする。最近はずっと泣き顔か、苦笑いか、眉を下げた表情しか見ていなかったような。

「ありがとうございますっ……!!じゃあ伝えてきますね」

そのまま笑顔でお礼を言ってから、すぐに家の外へと戻っていく。それから一分も経たずに帰ってきて、連れてきたのは兎の耳が生えた女の子だった。
その女の子は緊張しているのか少し落ち着かない様子で。可愛らしいな、と思いながら部屋の中へと案内しようとうちが動く前に、紅蘭が動いた。

「別に取って食ったりしないんだから、そんなに緊張しなくても良いんだよ。いつも百緑と過ごしてるように過ごしな」

紅蘭は女の子の頭をぽんぽんと優しく叩いて、家に入るように促す。相変わらず気を配るのが上手で、そこは変わってないなぁと嬉しくなった。
一方頭をぽんぽんされた女の子は、きょとんとしてぽんぽんされた所に手を添えている。……紅蘭、力加減間違えたんちゃうか?

「ど、どうぞ……。スリッパです……」

そんな女の子を百緑は丁寧にいつも荒神の人とか、うちをスカウトしてくる大学の人らとかを案内する時と同じように、女の子をリビングへ促す。家に客が来るのはよくあるけど、自分の友達を家に連れてくるというのは初めてだから百緑の方も緊張しているのがよく分かった。
二人で緊張して廊下を歩く姿は可愛らしくて、思わず紅蘭と顔を見合わせて小さく笑った。

「可愛いなあ」
「あぁ、可愛いねぇ」

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