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ゲーネにーちゃんぶっころ


「あっんの、あほにーちゃんめ……!」

あれから数分後、紅灯商会の知り合いに鉄骨から出してもらったクロムは、階段をかけ下りていた。
『ゲーネ・トリジェミニ』。
自分を鉄骨から助け出さなかったくせに、額に銃まで向けたくせに、撃たなかった黒牙會の青年。
そして、小さい頃に別れてしまった自分の兄。
だから自分を撃たなかったのかは分からない。
だが、そんなことはクロムにとってどうでもよかった。
普通だったら殺されているような状況下で、ゲーネは自分を殺さなかったという事がひどく腹立たしい。
そのまま言えば、「むっちゃムカつく」という思いだった。
思い出せば余計に腹立たしくなって、クロムの足は速まる。
普通に下りていたのが一段飛ばしになって、一段飛ばしが二段飛ばしになった。
降りるのが面倒くさいのでいっそ爆発させて建物を崩してやろうかと思ったが、先ほどの二の舞になるのでやめた。

何十回か降りて、少し目が回ってきたころ、ようやくその背中を見つけた。
メッシュなのか黄色の毛が少し混じった短い黒の髪を無理矢理後ろでくくっていて、紫と灰色の服。
銃を片手に「ここまで来ればもう安全やろ」と言わんばかりにゆっくり歩いている。
バカなのは兄妹で一緒らしい。
クロムは更に足を速めて、階段をかけ下りる。
そしてゲーネの数段上にいる今の場所からゲーネのいる踊り場まで、一気に飛び降りた。

「このっ、バカゲーネがぁぁぁ!!」
「えっ、ちょ、うぐおぉぉぉぉ!?!?」

叫び声で振り返るも時すでに遅し。
ゲーネは見事に顔でクロムの足を受け止めた。
クロムはゲーネを蹴り飛ばした後、じぃんと響くような足の痛みを無視して即座に倒れているゲーネの腹を踏んだ。

「ぐぇっ!」

とカエルの鳴き声に似た悲鳴をもらすゲーネにクロムは容赦なく銃をつきつける。

「さっきはよくも見逃してくれたな、バカゲーネ」
「お、ま。人のことバカバカ言い過ぎやねん。さっきのお前の方がバカやぐぇぇっ」

ムカついたので腹にのせている足に体重をかけた。
再びカエルの鳴き声が響く。

「やかましいわ!ていうか何見逃しとんねん!バカにしとんか!?」
「バカにしとうっていうかバぐぇっ!」

もう一度足に体重を乗せる。
この状況でバカと言えばやられることは分かっているだろうに、なぜ言うのか。

「本間ムカつく。もうマジ無理。殺す」
「殺せるんやったら殺してみい」
「何やねん、その自信」

この状況で何を根拠に「お前に自分は殺せない」と言うのか。
少し聞きたくて、引き金にかけていた指を離した。
するとゲーネは

「妹に兄が殺せるわけないっちゅーねん」

と鼻で笑いながら言った。

「……ほんっまバカにしとうな。その上でゲーネにーちゃんを殺す言うてんねん。うちの覚悟なめとうやろ」
「なめたらまずいやろぐぇぇぇっ!」
「……」

今すぐ撃ちたい気持ちを抑えて、代わりに思い切り足に体重をかけておく。

「なぁゲーネにーちゃん。バカやろ」
「バカで悪かったな、バカクロム」
「でも、最後にゲーネにーちゃんと話せて良かったと思うで」
「えっ、ちょっと待って、何その空気。マジで撃つつもりなん?」
「さっきからそない言うてるやろ」
「ちょお待と!俺死んだらクロムめっちゃ悲しいやろ!?」
「いや別に。めっちゃ話せたし満足やで」
「ひどっ!クロム一人やったら寂しいやろ!?話し相手おらんやろ!?」
「おるわ!見逃したことと言い、そういうとこがムカつくねん!」
「えっ、俺ムカつくから殺されるん!?紅灯商会のため〜。とかもっとええ理由かと思たわ!」
「悪いけど、紅灯商会にそこまで恩義ないから」
「ひどいやっちゃな!」
「せやな。自分でもそう思うわ。だから、ゲーネにーちゃん殺してまうんもしゃーないと思わん?」
「思わん思わん!」
「そっか、残念やわ。わかりあえんくて。ほな、また来世でな」

楽しい問答ももう終わり。と言うように、離していた指を引き金にかけてゆっくり力を込めていく。

「えっ、ちょ、待って本間うわぁぁぁぁ!」
「バン!!」

そして大声で、叫んだ。

「うっわぁぁぁ、俺死んだー!!もうあかんー!クロムに殺されたー!」

ゲーネはクロムの大声の後、目を瞑ってバタバタと手足を動かしてもがき苦しむ真似をしている。
それから数秒喚いて、はたと自分が撃たれていないことに気づく。
目を開けてクロムを見れば既に腹から足を離し、バカにしたような笑みを浮かべていた。

「撃たへんのかい!!」

ゲーネは全力でツッコんだ。

「これで、おあいこやな」
にやにやした笑みを浮かべつつ、クロムが言う。
その意味を理解して、ゲーネははぁ〜〜と安堵のため息をもらし、ようやく立ち上がった。

「なんやねん、もぉ〜!」
「バカにされたから仕返したったんや。あれ本間屈辱やからな」
「もー、俺本間に死んだ思たやん!」
「死んでへんからええやん」
「そういう問題やなくてやなぁ!」

ゲーネは服についた汚れを払いながら会話する。
そしてお腹辺りを払おうとして、ふと何かを思い出したようにクロムを見た。

「なんやねん、どしたんゲーネにーちゃん」
「お前、ダイエットした方がええで。胸ないのに重すぎやねん」
「やっぱ本間に撃ってええ?」

銃の用心金を外しながら、本気でそう言った。

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