小説 | ナノ


一つ目の悲願


𣜿葉がどこかへ出掛けようとしている。どこへか、ということはすぐに分かった。白鷺の奴等に奪われた大内裏へと行くんだろう。数年そばにいたから、𣜿葉の行動はなんとなく予想がつくようになった。
ただ勝算も何もないのになぜ向かうのかは、分からない。行動は予測できても考えまではいつまでも分からないままだ。
だがそんなことはどうでもいい。重要なのは他の奴らに邪魔をされずに殺せる、ということだけだ。おそらくこれは最初で最後のチャンス。逃す理由はない。
今尾行すれば気付かれてしまうのは目に見えていたので、𣜿葉が完全に見えなくなってから別の道を使って自分も大内裏へと向かおうと足を進めた。


別の道を使ってようやく大内裏へと着く。多少遠回りをする道なので、早足で来たつもりだったが𣜿葉よりも随分遅かったらしい。既に白鷺の奴が式神で𣜿葉を押さえつけていた。
あのまま殺すつもりなのか、それとも生け捕りにするつもりなのか。どちらにせよ、それでは都合が悪い。
あの時の陰陽師が近くにいるのだから出ていっても大丈夫だろうと判断して、茂みから𣜿葉の方へと向かう。その途中、声が聞こえた。女なのは女だが、まだまだ幼い声だ。子供は『これじゃダメですか』と言っていた。何がなのかは分からないが、嫌な予感がして駆け足で声の方へと向かう。
声の主はすぐに分かった。式神を使って𣜿葉を押さえつけている子供だろう。その光景を見てようやく先程の言葉の意味も理解する。つまり、あの子供は生け捕りにすればそれで良いのではないかと、言っていたらしい。
𣜿葉はぐったりしていて動かないが、外傷はほとんどなく血も出ていないので死んではいないだろう。気絶しているならば、今のうちに殺さない手はない。生け捕りなど冗談ではない。

「ダメだ」

茂みから出つつ、容赦なく子供を睨みつけながら低い声で威嚇し先程の要求を否定する。
ここまで様々な我慢をしてきた。この時を待ち望んで、必死に殺意を殺して𣜿葉や先代に仕えて来た。三十年間努力してようやくここまでこぎつけたのだ。それをこんな子供に邪魔されてたまるものか。

「退け、あとはわっちが殺る」
「だ、だめですっ……」

子供はわっちの殺意を受け止めながらそれでも弱々しくはあるが反抗をしてきた。ひどく煩わしい。𣜿葉が起きる前に、とどめをささねばならないのに。
蹴り飛ばしても良いのだが、子供の式神に殺されかねないし、陰陽師共も黙ってはいない。かといってこのまま押し問答をして子供が退くとも思えない。ならば、

「子供よ、わっちの目を見ろ」

子供は何の疑いもせずに俯いていた顔を上げ、わっちの目をじぃと見た。その瞬間に異能を発動させる。わっちの異能は目を見なければ発動できない。そのために目を合わせさせたのだが、思ったよりも簡単に子供は崩れ落ちた。
子供が意識を失えば、呼び出された式神も自然と消える。式神は唸って非常に怒った目をしていたが、飛びかかられる前に姿を消した。

「鹿葦津さんに何をしたんですか……」
「わっちの異能は目を合わせると幸せな夢を見せるものでな。このまま問答を続けるのも無駄なので眠ってもらっただけだ」
「目は覚めるんでしょうね」
「一時間後には強制的にな。そんなことよりも、こいつはもう殺しても良いな?」
「それなら良いんですが……。そちらはお好きにどうぞ」

幸い𣜿葉はまだ気絶している。あとは懐に入れておいた短刀を取り出して、それを心臓に突き立てるだけで長年夢に見ていた『大正水流家の解体』が成される。そう思うと心臓が昂ってひどく音を立て始めた。あまりの喜びに刀を持つ手が震える。外さないよう慎重に、ゆっくりと𣜿葉の心臓に短刀をあてがう。
そのまま振り上げて心臓目掛けて短刀を振りおろした。



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こちら(http://pedantic.main.jp/saikyo/hy_001.html)の流れをお借りしました。
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