小説 | ナノ


パンテラの夢


豹徒の前世の夢は『お嫁さん』であった。恋愛を経て結婚をして、子供を産んで、育てて、そして最期には家族に囲まれて看取ってもらう。そんなあの頃の一般家庭でよくある一生涯を過ごしたかったのだ。
過去に行きパンテラと会って、豹徒はその事を思い出したわけだが、いまいちその夢が理解できずにいる。いや、どういう事かは理解できているのだが、どうしてそんな夢を見るのかが理解できないのだ。
豹徒が見てきた夫婦はそんな甘い関係ではなく、もっとドロドロした関係だった。例えば両親。父親も母親も初めは互いに愛しあっていたはずなのに、父親は母親に暴力を繰り返し、挙げ句の果てに蒸発したらしい。例えばあの大嫌いな親戚達。政略婚で好きでもない相手と結婚させられ姑に虐げられる女もいれば、恋愛婚で結婚したはずが長年の付き合いでお互い冷めきってしまい浮気に走る夫婦もいた。
要するに、豹徒の中の結婚には全く夢がない。むしろ悪い部分しか見てこなかったために「結婚なんてろくでもない」という印象の方が強いのだ。
ふと、豹徒は自分もいつか結婚するのかな。と考える。その場合相手は仕事をサボってまで公園でほぼ毎日遊んでくれる、特高のあいつだろうか。もし、本当にもしだけど、そうなったら結婚だって悪くないのかもしれない。
そこまで考えたところで、先程まで全く理解できなかったパンテラの夢へと思考が戻ってくる。
つまりパンテラは結婚したかったのではなく、誰かに愛されて普通の一生を過ごしたかったのだ。
そう理解できると、彼女の一生がいかに哀れだったのかも理解できてしまう。結局彼女は歪んだ愛で死んだのだから。
豹徒はその夢を継ぐわけではないが、せめて自分が幸せになることでパンテラは報われるだろうか?と考える。しかしそんなのどうでもいいな、と首を横に振ってすぐさま打ち消した。
豹徒にとってそんなことで幸せになろうと、愛されようと急ぐより、今の幸せを楽しむ方がずっと大切なのだ。

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