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暇つぶし


「うわー、本間怖いわぁ」

言葉とは裏腹に、声音は全く怖がっていない。むしろ楽しんでいるようにクロムは独り言を呟く。
その視線の先には大人も子供も、女も男も関係なく入り混じった集団がおり、その半分以上は殺気立っていた。
それもそのはず今夜ここ、摩天楼で大阪帝国極道二大勢力の「紅灯商会」と「黒牙會」による大規模な抗争が起ころうとしているのだ。
クロムはそのうちの、この喧嘩を吹っ掛けた側である紅灯商会に属していた。
たまには会長もええことしてくれるなぁ。と内心独りごちながら、ポケットに入れておいた釘をいじる。

クロムにとってこの戦いは「生きるか死ぬか。勝つか負けるか。繁栄か解散か」……などと大層な事は考えておらず、ただ「人目を気にせず、好きなだけ爆発してもええ場所」と捉えていた。
クロムにとって爆発は人生に欠かせないもので、そのためにわざわざ特注の釘を作る帆だ。
本人曰く「ええ釘つこたらな、きれーぇに爆発すんねん」らしい。

「あー、本間楽しみやわ!なー、そらちゃん!あと何分!?」

自身は時計を持っていないので、近くにいた新人で同い年の山下そらに声をかける。「え、えと11時55分です」

山下はいきなりハイテンションで話しかけられたからか、若干引きながらも腕時計を見ながら答えてくれた。
時刻を聞いたクロムは、山下が引いていることには気付かずその調子のまま話を続ける。

「そっかー。あと5分か〜。長いなあ。イチジツセンシュウの思いってやつやわ!」
「……あ、はい。そうですね」
「えっ、何なんその間!?もしかしてうちがこんな言葉使うん意外や思てへん!?」
「いえ、そんな……」
「思てへんのやったら目ぇ合わしてっ!」

わっとわざとらしく大げさに両手で顔を覆うクロムだが、山下は苦笑いを浮かべ対処に困っているのが見て取れた。

「そら、そろそろ準備しいや」

そんなそらを見かねたのか、もうすぐ開始時刻だからなのか、山下に護衛を頼んでいる梅生が山下に手招きをする。

「あっはい!それじゃあクロムさん、さようなら」

それに気付いた山下は梅生に返事をしてから、クロムに軽く一礼をし去ってしまう。

「うん、また地上でなー!」

パタパタと梅生のもとへと駆け足で向かう山下の背中に向けて、クロムは手を振って別れを言った。

「さーて、そろそろ五分経ったやろ!」

再び一人になって少し寂しい気もするが、伸びをすることで気持ちを切り替える。
開始の銃声が鳴るまで、あと十秒。

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