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本はお好き?


紅蘭を探して7年が過ぎたが、未だに見つからない。
学校内を探そうと適当に歩き回ってみるものの、藍蘭には百緑のような能力はないので全くの無意味。
そうわかってはいるのだが、希望は捨てきれないものでとにかくふらふらと歩き回っているのだ。
もしかしたら、自分の姿を見て話しかけてくれるかもしれない。
そんな極々わずかな可能性にかけて。

ふらふらとどこへ行くでもなく歩いていると、図書室に行き着いた。
ここ、天照学院は幼等部から高等部までのエスカレーター式の学校だ。
そのため図書室の規模も非常に大きい。
図書室というよりはいっそ図書館と言った方が良いかもしれない。
よくもまあ本のためだけにこんな大きな建物を建てたものだ、と内心少し呆れた。
普段なら寄り付かない場所だが、今日は紅蘭探しのために少し寄ってみることにする。

キィと音をさせながら木の扉を開き、中へと足を進ませた。
やはり、静かだ。
体育会系の藍蘭には少々痛いくらいの静寂。
空気も少し重く、暗い。
その雰囲気に負け、藍蘭はおもわず音をたてないようにして歩いていた。

広大な図書室を歩き回るのは体力のある藍蘭にとってさほど苦ではなく、数分で歩き終えてしまった。
そしてやはり紅蘭は見つかっていない。
分かっていたことではあったが、気が沈む。
用は済んだし別のところを歩き回ろうと、図書室の扉に手をかける。

「お探しの本は見つかったかね」

そこで突然、声をかけられた。
周りには藍蘭一人。
他の人に話しかけたわけでもないだろうと一応振り返る。
そこには人の形はしているが、髪はなく、手は四本で、肌は真っ黒という奇妙な生き物がいた。
藍蘭の脳裏におもわずまっくろくろすけの進化系。という言葉が思い浮かんだが打ち消しておく。
その代わりおそらくは妖怪だろうと見当をつけた。

「いや、私は本じゃなくて人を探してたんです」
「折角図書館に来たのに何も借りず出ていくのはもったいないぞ」
「本を読むのは苦手なんです」
「ふむ。それならこれはどうかね。読みやすいし、面白い」

制服が学ランなので中等部の生徒なのだろうが、なぜ先輩である藍蘭に、しかも今初めて会った人間にここまで本を進めてくるのか。
藍蘭は不思議に思いつつも、わざとらしく迷惑そうな顔をする。
そんなことよりも早く紅蘭を探しにいきたというのに、ここでこんなのに捕まるとは思っていなかった。

「あの、私、急いでるんです」
「そうか、引き留めてしまってすまない。だがこれだけは読んでおくと良い」

それだけ言うと真っ黒い彼は一冊の本を藍蘭に渡してきた。
藍蘭は一瞬受けとるか受けとらざるか迷って、受けとらないと話が長引きそうなので受けとることにする。

「えーと、ありがとうございますです……?」
「礼よりも感想を聞かせてくれるか、読書に目覚めてくれればそれで良い」
「はあ……」

なぜ後輩が偉そうにそんな事を言いながら本を手渡してくるのか、藍蘭には全く分からない。
とりあえず生返事のような返事をしながら受けとると、真っ黒い少年は椅子の方へと歩いていった。
藍蘭はそれを確認することもなく、受け取ってすぐに戸を開けて図書室から出る。
本の始末をどうしようかと迷って、百緑にでも押し付けるもとい譲ろうと考える藍蘭。
感想を、と言われたがこの広い天照学院の校舎内で学年が大きく離れている者に再び会うことは珍しい。
もう会う事はないだろうと検討をつけて、図書室を後にした。
ちなみにこの後、藍蘭と真っ黒い少年は天照学院内で何度も会い、その度に喧嘩をする仲となるのであった。

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