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お前は誰だ-2


その後、豹徒は俺がいない間に帰ってきたらしい。玄関前で掃除をしていた寮長が言うには、なんでもばつの悪い顔をして帰ってきたそうだ。
それを聞いて少し安心した。そのまま帰ってこないなんてなったら後味が悪すぎる。
自室に入ると、豹徒は寮長から聞いた通りの顔をして部屋の隅の方に座っていた。
そして俺の顔を見て、少し顔をそらしながら小さな声で言う。

「悪かった……」
「いいや、俺も好奇心が過ぎた。悪かったな」

俺がそう言うと豹徒は逸らしていた目を俺に向けた。
その目はいつもより大きく開かれて、まさに驚いていると言った目だ。

「俺が謝ったのがそんなに意外か……」
「うん、ちょっと」
「お前な……。まぁ、お互い様なんだし、そんなに落ち込むんじゃねえよ」

言いつつ部屋の中に入り、畳んである布団を敷いて部屋着に着替えていく。これで寝る準備は整った。あとは布団に入って目を瞑るだけだ。
しかしそれを止めるように豹徒が俺の着物の裾を掴む。そのおかげで後ろのめりになり、後ろ向きにこけそうになったがなんとか持ち直した。

「なんだ、何か用でもあんのか」
「なぁ、俺がお前の来世なんだって言ったら、信じる?」

仕方なく振り向いて用を聞くと、豹徒は今まで以上に真面目な顔をして、不安そうな声でそう言ってきた。
しかし俺は妙にそれに納得できた。
こいつとは初めて会った気がしなかったし、なにより本当に来世なら俺の顔を見て悲鳴をあげて気絶した理由や、昨日俺を存在を全否定しやがった理由も分かる。

「あぁ、信じてやるよ」

だから、当然だろとでも言うように力強く、少し微笑みながら俺はそう返した。
豹徒はさっきよりも大きく目を見開いて、苦笑いをする。

「こんな話信じんのかよ」
「だってそれならお前が俺の顔見て倒れたり、俺の存在全否定したりした理由にも納得いくしな」
「うっ……!」
「……豹徒、お前が俺の来世なら一つ聞かさせろ」
「なんだよ」
「お前、幸せか?」
「うん、すっげえ幸せだよ」

豹徒は迷いなく、向こうの知り合いでも思い浮かべているのか、幸せそうな顔をしてそう言った。
その顔を見れば嘘ではないというのが分かる。
すこし、羨ましい。

「そうか……。だったら良かった。じゃあおやすみ」
「お、おう。おやすみ」
そのまま布団に潜り込み目を瞑る。
豹徒は質問の意図が分からず、戸惑っていたがそんなことは知らない。放置だ。
少しして、扉を開ける音がしたような気がした。豹徒が散歩に行ったらしい。
静かになった部屋で、俺はゆっくりと眠りについていった。



あれから起きて仕事をして、帰ってきて寝るといういつも通りを過ごした後、いつもより早い時間に目を覚ました。
今日の仕事は休みをもらった。
折角なので来世の俺はどういう風に暮らしているのか、豹徒と話をしたかったからだ。
その日はその予定通りに過ごした。
かなり年の離れた恋人がいるとかいう話だとか、豹徒の幼少の話、椿組と言う極道の奴らの話、今は「真昼」って奴にお世話になっている話だとか。
とにかく色んな事を聞いた。
その代わりに俺からは豹徒の質問に答えてやったりした。
話が終わる頃にはすっかり夜になって、時刻は11時。
豹徒は既にかなり眠いようでうつらうつらとしている。
寝るか?と聞くと寝ると答えたので布団を敷いた。
狭い布団に無理矢理二人で入る。

「明日になったらお前を追い出さなきゃいけないわけだが、どうすんだ?」
「んー……、帰れる方法でも探す」
「帰れなかったら?」
「椿組に行く」
「今とお前の所じゃ方針が違うから気を付けろよ」
「知ってるけど、そこしか知らねえし」
「帰れると良いな」
「絶対帰るよ」
「おう、頑張れ」
「おう、頑張る」

その言葉を終わりに会話は途切れ、数秒後豹徒から寝息が聞こえてきた。
俺も目を瞑ったが、普段とは真逆の時間帯なので全く寝付けず、結局寝ることができたのは随分後だった。

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