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拉致られた


現在ちょうど18時。
世間一般では夕飯の時間だ。
しかしながら藍蘭の家では夕飯はまだまだ先である。
なぜかというと、藍蘭はいつもこの時間から外に出て前世の弟、紅蘭を探しに出るのだ。
パシリもとい友人の百緑は既に外に出て、先に紅蘭を探してくれている。
早く合流しないと、と考えながら藍蘭は慣れた手付きで制服から普段着に着替えた。
荒神家である証の黒い指輪と財布、それから『百緑』と綺麗な字で書かれた紙を持って玄関まで小走りで行く。
草履を履いて、どうせ誰もいないので出掛けの挨拶もなしに無言で玄関を開けーー閉めた。

「え?」

藍蘭はとっさに鍵を閉め、少し扉から離れる。
ちょちょちょちょっと待と。落ち着こ。なんか玄関開けたら人がおった気する。いや気のせいや気のせい。

「あいらーん!?何で閉めたん!?おにーちゃんやでー!?」

藍蘭の自分への言い聞かせも虚しく、玄関からあまり聞いたことのない声が響いた。
確か、荒神家に入ってすぐ。
百緑を連れて荒神全員に挨拶に行った時に聞いた声。
大きめの槍を持った糸目で胸元の露出がひどい人だった気がする。

「なー!おーい!」

玄関からさらに声が響いた。
このまま裏口から出ようかと思ったが、後ろめたいことをしていると思われても困る。
藍蘭は仕方なく鍵を開け、そろそろとドアを開いて顔だけ出した。

「な、なんです?」
「いやー、ちゃんと飯食うてるんかな思てな」

警戒心剥き出しの声で訪ねる藍蘭だったが、来客者は全く気にしていないようで、にこにことした笑顔で答える。

「食べてるです。……用はそれだけです?」
「いーやぁ、折角家族やねんから本家で一緒に食べへんか?」
「は?あ、いや、え?」

来客者の予想外の返答に、藍蘭は思わず関西弁が出てしまった。
口に出してからはっと気付き、すぐに標準語で訂正する。

「いや、私今から出掛けるんで」
「そんな冷たいこと言わんと!飯は皆で食べた方が美味しいんやし、ほら行くで!」
「え?いや、ちょっ、あのです!?」

きっぱりと断ったはずなのに、なぜだか一瞬で手首を捕まれておそらく本家へ向かうべく引っ張られる藍蘭。
振りほどこうにも流石荒神と言うべきか、びくともしない。

「あの、私行くところが」
「そんなん飯食うてからでも大丈夫やて〜」
「それに私行くとは」
「まぁまぁ、ええやん」

何が良いんや!何が!とツッコみたい藍蘭だったが、このままツッコむと素が出そうだったのでそのまま飲み込んでおく。
この調子では本家で食事をとるしかないらしい。
はぁと軽くため息をついて、仕方なく抵抗をやめた。
しかし信用されてないのか、離してほしいと伝えてもはぐらかされ、結局最後まで離してくれることはなく。
藍蘭は来客者に引っ張られて荒神本家に辿り着く形となってしまった。
今誰かに見られたらこの人恨も。と物騒な事を藍蘭は考える。
それほどまでに見られたくないのだが、残念ながらこう言う時に限って人に会うもので。
門を潜り抜けた先に、長い黒髪にハイヒール。そして、髪の毛と同じ色の斧を持った女性が立っていた。
そして女性は藍蘭の隣の男を見つめている。

「…………」

藍蘭の背中に一筋の冷や汗が流れた。
これってうちも巻き添えになるのでは、という考えが脳裏に浮かぶ。

「にぃぃぃさぁぁぁん!おかえりぃぃぃ!私とたたかってよぉぉお!!」
「おー!ええで!」

案の定斧を持った女性は槍を持った男性に襲いかかり、男性は軽くその斧を受け止めた。
ええでとちゃうわぁぁぁ!と全力とツッコミたいのを気合いで抑えて、藍蘭は巻き込まれないようとりあえず玄関まで全力疾走で逃げる。
運良く鍵が開いていたのでそのまま急いで中へ入った。
すると今度は左目に眼帯をつけ、腰に剣をひっさげた女性が現れる。
眼帯の女性は藍蘭の姿を見て、驚いた顔で藍蘭に訪ねた。

「どうした藍蘭。お前がこちらに来るとは珍しいな」

その声に負けないくらいの音量で、後ろから金属音やら、「藍蘭逃げんとってぇやー!」と言う声が聞こえた気がするが、藍蘭はそれら全てを無視してにっこりと笑顔を作る。

「ちょっと、後ろの人に拉致られたんです」

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